遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

翻訳家 山岡朋子さんとの出会いから1年: その1

 祝 ブログ立ち上げから1年!


このブログで扱うテーマが広がっているので整理の意味で改めて振り返ってみます。想い入れがありますので、少なくとも2回に分けて;


立ち上げの直接のきっかけは、自己啓発関連のドナ・カーネギーの著書 "How to Win Friends and Influence People for Teen Girls" の翻訳版である 『13歳からの「人を動かす」』 を読んでそのわかりやすい翻訳に感心したことでした。原作者の父親 デール・カーネギー は、人間関係 (ひととのかかわり) について世界中で認められた大家です。私はデールの主要な著作を読んだだけではなく必要にかられて実践して、その普遍的な正しさ・的確さは身をもって実証?済みでした。 『13歳からの「人を動かす」』 はそのエッセンスをわかりやすくまとめたものですから、翻訳の質が良くないとデールの大作の陰に隠れてしまう本です。


この書籍に関しては別途扱うとして、感心ついでに調べてみて翻訳会社のサイトに投稿のエッセイなど読んだり、山岡とも子さん名を含む他翻訳を読んだりするうちに、私が80年代初頭から関わって来た中南米の文学を横山朋子さん名で翻訳した 『ルス、闇を照らす者』 とめぐり合いました。実は山岡さん翻訳の原作は全て原語でも読んでおりますが、私の得意分野であるスペイン語の、 『ルス、闇を照らす者』 の原作 "A veinte años, Luz" と翻訳を読み比べて更に感心してしまった。中南米スペイン語に慣れていれば理解は出来るが訳しにくい口語の多い作品であるにもかかわらず非常に生真面目?に訳してあり、初めてのスペイン語の翻訳であることの初々しさも手伝ってか、原作のリズムやイメージがうまく再現されているからです。 (勿論100%完璧な翻訳では無いかも知れませんが、致命傷となるミスは無いと認識しています) この作品の読み比べを通じて、山岡朋子さん (あるいは山岡とも子さん・横山朋子さん) は、単に 『応援したい翻訳者』 から 『惚れ込んだ翻訳者』 に変わったと云えますね。


この翻訳が出版されたのは2001年6月30日、中古であっても私にとっては入手した2008年9月25日の「新刊」です。しかし出版からたかだか7年で既に絶版であることには憤りを感じ、何とか復刊させられないか? と考え出した次第。当時の出版社・翻訳エージェントに確認しても既に出版権無し・翻訳権も返上されている様ですから道険しですが、原作も出版に当たっては紆余曲折があったものの現在新刊が出版され部数を伸ばしている様なので、何か方法がある筈、と確信しています。


そのためにまず周辺; 原作の位置づけを再認識しようと考えた時、作品のテーマであるアルゼンチン軍政時代のおぞましい人権蹂躙は、アルゼンチンに限らず中南米全域が 「アメリカの裏庭」 と呼ばれた時代の、同国による暴力による直接・間接の介入の歴史と無関係ではないだろう、と云う現実にぶつかります。また原作者が受けたインタビュー記事なども参照すると、この作品は単なるフィクションではなく、徹底的に自国の歴史の恥部と事実を調べ上げると云う、痛みも身の危険も伴う作業の結果として産み出されたこともわかります。アムネスティーが2001年6月12日付け 「アルゼンチン緊急行動」 と題するメール中でこの翻訳本を紹介し、当時毎日新聞記者であった横山とも子さんの文章を借りて草の根運動家に対して発信しておりますが、さてどの程度その意義を理解していたのか?


この小説には普遍性があります。扱われている暴力は中南米では過去のものであると同時に、大変残念なことに一部の国では今日現在でも現実です。直接の加害者、あるいはその後ろ盾が誰かを考えた時、アフガニスタンイラクなどでも現実の筈である、と類推することに何の無理もないし、実際少しずつではありますが暴露されつつありますよね。


山岡朋子さんの名前を冠したこのブログでネガティブなことを書くのは本当は嫌なのですが、 『ルス、闇を照らす者』 の存在価値を考察するうえでは避けることが出来ません。原作者エルサ・オソリオさんの出版の意図を考えると、作家としての彼女が登場人物をして語らせることによって描き出した 「普遍性のある」 暴力行為は止めなければ・止めさせなければなりません。日本でこの様な歴史が紹介されていないのであれば尚更です。そこに原作および翻訳の存在価値がある。


−−−とは云ってもねぇ。暗い話題だけでは気が滅入って来ますから、翻訳・スペイン語・英語関係ってことで、時事記事の紹介やら日本ではマイナーな観方をしているサイトの紹介もするし、私にとって生の一部である、唄を中心としたフラメンコの紹介もしてバランスを取りたい。結果としてテーマが拡がっていますから、このブログは右カラム中の 「プロフィール」 (クリックすると詳細・メールアドレスが見られます) に記した様に、【翻訳・執筆活動応援の目的で書き溜めた記事の保管庫】 と位置付けています。1年経ちましたがもう少しこのスタイルで行き、どこかで分岐させるかも。


(多分 その2 に続く)