アメリカの愛国心、日本の?? その2: 過去のオリンピックでの例
9月10日付け 『アメリカの愛国心、日本の??』 の最後に 「--- 世界規模での競技会の表彰で選手が国旗から顔をそむけたらどうなるか、---」 と書いたところ、えまのんさんよりコメントとして、1998年開催の長野冬季オリンピックで金メダルを獲得した 里谷多英 (ウィキペディア) 選手が国旗掲揚のとき帽子を取らなかったことを例示頂きました。
私の曖昧な記憶を頼りに更に昔のことを調べてみましたら、1968年メキシコオリンピックの陸上競技で、アメリカの黒人選手が表彰台で抗議を行ったことを思い出しました。私はxx歳 (実は東京オリンピックのことも覚えていたりして) でしたが、それが印象に残っていた、と云うこと;
出典: http://en.wikipedia.org/wiki/Tommie_Smith
思い出すきっかけとなった記事は;
http://www.the-journal.jp/contents/rick/2006/10/fist_full_of.html
リック・タナカの「南十字星通信」 2006年10月 6日 12:20
拳をかざせ/fist full of.
−−−アメリカ国歌の流れるお立ち台で黒い手袋,右の拳をあげるのは金メダリストのトミー・スミス,銅メダリストのジョン・カーロスは左の拳をあげています。スミスとカーロスはこの抗議行動のため、メキシコ大会から放り出され,オリンピックからも追放されました。 (中略)
お立ち台のノーマンはこのとき,アメリカの人権運動のバッジを胸につけていたそうです。
ノーマンのメキシコシティーでのタイム,20.06秒は38年間破られることがなく未だにオーストラリア記録です。それも,ものすごい名誉なことでしょうが,ノーマンにとってはスミスとカーロスの抗議に居合わせたことが生涯の誇りだったようです。
この記事は、その同じ表彰台のうえで銀メダルを獲得したオーストラリアのピーター・ノーマンさんが亡くなられた際のもの。元となった記事は;
http://www.smh.com.au/articles/2006/10/03/1159641325056.html
He didn't raise his fist - but he did lend a hand
Philip Derriman and Len Johnson (The Sydney Morning Herald)
October 4, 2006
なお3選手(順不同)に関しての情報のうち代表的なものは;
トミー・スミス 日本語版ウィキ
Tommie Smith 英語版 Wiki
Tommie Smith.com トミーさんHP
ジョン・カーロス 日本語版ウィキ
John Carlos 英語版 Wiki
Dr. John Carlos Official HP ジョンさんHP
ピーター・ノーマン 日本語版ウィキ
Peter Norman 英語版 Wiki
SALUTE - The Movie webpage (directed by Peter Norman's nephew Matt Norman) ピーターさんの甥が監督した映画のHP
問題の200m走から表彰台までの一連の記録は
Title = Mexico 68 olimpiadas "Black Power"
この動画はスペイン語。なお黒人選手に焦点が当たっていますが、銀メダルのノーマンさんの最後の追い上げは、陸上に限らずスポーツと無縁の私でもコーフンしますね。
上掲 トミー・スミス によると、
オリンピックでの抗議パフォーマンス (抜粋)
−−−メダル授与の際、銅メダルを獲得したチームメイトのジョン・カーロスと共に黒手袋をつけ、靴を脱いで黒いストッキングを見せる格好で表彰台に上がった。アメリカ国内の人種差別に抗議するために彼らは星条旗が掲揚されている間中、ブラックパワー・サリュート(Black Power salute)という拳を高く掲げるブラックパワーを誇示するパフォーマンスを行ったのである。同競技の銀メダリストでオーストラリアの白人ピーター・ノーマンも2人の抗議行動を支援、彼もまた表彰台で人権を求めるオリンピック・プロジェクト(Olympic Project for Human Rights、略称:OPHR)のバッチを着けていた。
メキシコオリンピック(10月12〜27日)が開催された 1968年 には色々なことがありましたが、大きなのはやはりキング牧師暗殺(4月4日)、ケネディ(注:RFK。実兄JFK暗殺は1963年11月22日)大統領暗殺(6月5日)でしょうか。抗議パフォーマンスについては;
ブラックパワー・サリュート
1968 Olympics Black Power salute
なお表彰台上の3人が左胸最上部に付けていた 『人権を求めるオリンピック・プロジェクト(Olympic Project for Human Rights、略称:OPHR)』 のバッジは、よく見えませんが;
出典: http://www.tommiesmith.com/merchandise/ophr_button.html
(トミー・スミスさんHP内にて販売されている様です)
Title = Black History: 1968 Olympics
この動画の冒頭、当時のブランデージIOC (国際オリンピック委員会、国連等の国際機関の一つと思っていましたが、私的な団体とのこと) 会長コメントが挿入されています。理念と現実の差が大きい、と云うことですね。
結局、トミー・スミス (日本語版ウィキ) によると、 『両名に厳しい措置がとられたにもかかわらず、その後もメキシコシティオリンピックの表彰台ではアフリカ系アメリカ人による抗議のパフォーマンスが繰り広げられた。男子400mを独占したアメリカのリー・エバンス、ラリー・ジェームズ、ロン・フリーマンは黒いベレー帽をかぶり、トニー・スミスら同様に拳を掲げた。男子走幅跳の金メダリストボブ・ビーモンは黒いソックスを履き、同じく男子走幅跳のラルフ・ボストンは素足で壇上に上がった。いずれも「黒」を強調することでブラックパワーを誇示するパフォーマンスである。表面上、非政治性・政治的中立性を装うオリンピックは、奇しくも競技者の身体的表現によって、アメリカ国内における人種問題の矛盾を全世界に表明する政治的な「場」となった』 とのこと。
従って別の角度から見ると、問題のパフォーマンスは愛国心を拒否するものではなく、むしろ自国を良くしたいと云う公民権運動の一環とも考えられますね。TPOについては議論があるでしょうが、同じ年キング牧師が暗殺されたこともあり、相当危機感があってあのパフォーマンスに繋がったのでは? いずれにせよ自分達の行動の意味を十分理解したうえでの確固たる信念に基づく行動ですから、世間知らずの行儀の悪いねーちゃんの帽子事件とは全く異質かも。
自国内で議論やら行動している分にはさして問題は無さそうですが、他国が関係して来るとハナシは難しくなります。国旗や国歌をシカトすることは国際儀礼上野蛮な行為でしょうからね。 (無知であっても抗議であっても結果は同じですが。) 国際大会などでの国旗掲揚・国歌演奏を止めよう、と日本国として事前に提案でもしない限り、対外的に偶像崇拝は必要ですね。