遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

NZ 炭鉱爆発事故: 続報 7 石炭産業のこと その3/3

(その2 より続く)




【地質的な構造】


  
  出典: Google Map
   "A" マークは Greymouth


  
  出典: Plate tectonic boundaries of the southwest Pacific


  
  出典: New Zealand Earthquake Density Map
   NZを貫く2本の緑の線は "Transform Faults" ですから、プレート境界において生成される横ずれ状の断層。


  
  出典: GeoNet – New Zealand Earthquake Report
  "the current earthquake (indicated by a star) in the context of ten years of 'shallow' (less than 40 km) seismicity."
  ※ 印は直近の地震 *1震源


  
  出典: Global Volcanism Program Volcanoes of the World Volcanoes of New Zealand to Fiji Map


ニュージーランドは北海道 (北島) と本州 (南島) みたいだし、地震や火山が多く温泉もあったり地質学的に日本と類似点もある様に思え親近感があるのですが、実際には日本の方がはるかに複雑の様です;


  
  出典: 日本列島の地質と構造 / 産業技術総合研究所 地質調査総合センター(GSJ)
   非常に分かり易い、秀逸な資料です!



Pike River 社資料 にある様に、過去の日本の採炭とは異なり、 (見た感じでは) 山の下の方から Brunner seam (炭層) の下まで緩やかに上昇する2Km程度のトンネルを堀ってそこから坑道を掘り進め、高度に機械化された採炭を行っている様子。この炭鉱が日本の炭鉱と大きく異なる点は、坑内掘りでも炭層が水平に近くかつ厚さが (確か) 7m程度あること。同社はその技術力を元手に投資家から資金を募って採炭事業を順調に展開・拡大しつつあり、地元経済・コミュニティーに貢献。その意味で、存在が求められる優良企業だったでしょう、事故が起きるまでは。


実際にはトンネルが断層を横切っていますし、この一帯では過去ガスが原因の大きな炭鉱事故も発生しており、上掲の様にNZは地球の営みが地表で活発な地域ですから、リスクの大きい事業であることが改めて認識されたと思います。原因解明の結果安全性の確保が出来ない限り、閉山は止むを得ないでしょうね。撤退の経済的なデメリットは勿論ありますが、同国炭鉱の8割を占める露天掘りと云う別の選択肢もありますから−−− (蛇足ですが、これはあくまで目先の経済効率のハナシ。露天掘りは安全・安価かも知れませんが、自然界の中にぽっかりと開けた巨大な深い穴をどうするのだ、という別の問題がありますから。)


参考まで日本の炭鉱の歴史と今を振り返りますと−−−



【日本の炭鉱事故〜衰退】


−−−日本の炭鉱はアメリカやオーストラリアの大規模炭鉱と比べて地層構成が複雑なため、石炭は地下の深部にあることが多い。そのため何kmにも及ぶ坑道を掘り採掘していたが、労働条件は悪く、上記のようにメタンガスや粉塵による爆発事故・落盤などが多発し、多くの殉職者を出してきた。 (石炭 より)


−−−日本では明治年間になると殖産興業の名の下、鉱山開発が盛んに行われた。しかし、当時の鉱山は利益優先で、労働環境は二の次であったため安全対策は劣悪な場合が多く、特にガス爆発や粉塵爆発が発生しやすい炭鉱においては、しばしば大規模な事故が発生した。小規模な死傷事故は、記録に残っていない事故まで含めると膨大な数となると考えられる。第二次世界大戦後、安全対策が充実すると事故の発生件数は劇的に減少したが、高コスト、流体エネルギーへの転換、輸入炭の増大などから閉山が相次ぐことになった。また、事故も完全になくなったわけではなく、そのため事故に対する労働者や遺族への補償も経営者の大きな痛手となり、日本の炭鉱衰退に拍車を掛けた。 (炭鉱 より)

   中国で炭鉱事故が頻発しているとするなら、正にWW2以前の日本と同じ状況でしょう。日本は中国からも石炭を輸入していますが、『利益優先』 ではありませんか? 事故頻発に関して 『アカの政府の人命軽視によるもの』 なんて馬鹿なコメントをする資格などありません。


−−−日本の炭鉱は、世界トップクラスの効率や保安設備を誇ったものの、ひとたび事故・災害が発生すると多くの人命を奪い、後遺障害を持つ患者を出し、安全対策が後手後手に回るなど、危険度の高い職場であったことには間違いない。さらに、事故・災害の莫大な人的補償費用は炭鉱を営む鉱山会社の企業体力を徐々に奪っていった。 (三井三池炭鉱 - Wikipedia より)


想い出の三池炭鉱 参考、2010年11月23日紹介のもの


炭鉱事故のうち犠牲者数の多いものは;

本渓湖炭鉱爆発事故:1942年4月26日、犠牲者1,549名
   場所は満州ですが、日本統治下時代のものです。史上最悪の炭鉱事故。

方城炭鉱ガス爆発事故:1914年12月15日、犠牲者687名

三井三池三川炭鉱炭じん爆発:、1963年11月9日、犠牲者458名

三井山野炭鉱ガス爆発事故:1965年6月1日、犠牲者237名


セングヘニス(英)炭鉱事故:1913年10月14日、犠牲者439名
   参考、この事故以後欧米では犠牲者300名以上の爆発事故は発生していない。 (石炭 より)


Coal mining disasters - SourceWatch
   参考サイト:炭鉱事故




【日本の炭鉱:現在】


釧路コールマイン株式会社 石炭採掘の紹介

  
   Pike River とは逆に、海底に向けトンネルを掘って採掘。この鉱山は同社が 太平洋炭礦 から継承したものですが、 『太平洋炭鉱は1954年8月のガス爆発事故以外に閉山まで大事故を起こすことが無かった炭鉱としても知られる』 そうですから、ガスの問題はあまり無い様子。でも海水が侵入したら一発で終わりですね。


長崎炭鉱技術研修センターにおける「池島体験プログラム」

  長崎池島 松島炭鉱池島鉱業所




【厄介者 炭鉱メタンガスの資源化】


【Vol1】ワールド・コール・レポート JCOAL 財団法人 石炭エネルギーセンター

   ガスが多い鉱山なら、それを逆手に取ることも出来る? そんな選択肢も現実にアリですね。



日本も Pike River 社からの供給を受けていますから、事故後の推移には興味があります。でも石炭やらリチウムやらレアアースに限らず、食料も含めた日本の資源調達には大変不安がありますね。近い将来、必ず問題になります。


最後に、今回色々調べていて、石炭に関して貴重な資料を見付けましたので紹介。先日世界の石炭埋蔵・生産をまとめた本当にちゃっちいExcelファイル紹介しましたが、BP社作成の素晴らしいもの。もっとよく探せばよかったのですが; ⇒ "BP Statistical review of world energy June 2007" (XLS). 、紹介元は Coal - Wikipedia

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*1:Magnitude 4.4, Saturday, November 27 2010 at 11:04 am (NZDT), 10 km south of Darfield.