遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

ギリシャ危機: 国民が責任を負うべき性格のものなの?

今回の問題はギリシャ政府だけの責任では無く、投機筋・IMF・本来加盟国を積極的に防衛すべき欧州中央銀行の責任も小さくはないな、と感じています。幾つかの記事を紹介;

  • 現地リポート 債務危機 そこに生きる人々 6回シリーズ(1/6)
    時事ドットコム、日付不明


    読みやすいレポートですが、 『−−− 債務危機が、ギリシャ社会に変化を促す兆しがあることも見逃せない。痛みを伴う改革に、「それしか方法がない」「仕方がない」との意見が相次いだ。』 との記載は、全体から見るとごく少数の意見ではないか? 一部国民もその恩恵に預かったのは事実にしても、冒頭に挙げたプレイヤー達の不始末の尻ぬぐいを国民が押し付けられるのはおかしい。自分の身に置き換えてみれば当然。だからデモが起きているのでしょう? 結論ありき、の感が否めません。


背景を理解するために、参考となる田中宇さん記事を紹介します。 金融屋や株屋のヒモが付いていませんし、独自の視点から書かれた秀逸な考察と思います。なお有料記事についてはHPで表示されている部分+αの紹介のみ;

  • 田中宇の国際ニュース解説


    ◆ユーロ危機はギリシャでなくドイツの問題 (これは有料記事)


     【2010年4月30日】EUは昨秋、大統領と外相ポストを新設し、政治統合に動き出した。オバマもブッシュ同様、英国を邪険にする態度をとっている。米英の財政赤字も急増し、このままでは英米覇権は崩壊だ。そのため英米中心主義の側は、ギリシャ危機を扇動し、ドルの対抗馬となりそうなユーロを潰しにかかる金融戦争を先制攻撃的に起こした。戦争といっても、戦っているのは米英の側だけで、ドイツはほとんど応戦せず、無抵抗でやられているばかりか、利敵行為をする人がドイツ内部に多い。 (以上、HPでの紹介)


    (以下、有料記事の中から最低限抜粋) −−− ギリシャの赤字問題は最近始まったことではなく、悪化が近年特にひどくなったわけでもない。英国が、欧州の覇権をとった後の19世紀前半、トルコ帝国に対抗するための傀儡勢力として近代ギリシャを建国させて以来、ギリシャは産業や社会の基盤が弱く、財政赤字の体質だ。しかもギリシャのGDPはユーロ圏全体の2・5%と小さい。ドイツを筆頭とするユーロ圏の大国群が適切な危機回避策をとっていれば、ギリシャ危機が今のようにユーロ危機に発展することはなかった。


    しかしこの問題が危険なのは、ギリシャの危機を扇動しているのが、ゴールドマンサックスやJPモルガンといった米国の投資銀行的な勢力と、S&Pなど米英の格付け機関であることだ。彼らは、ドルやポンドの危機を回避するために、ドルやポンドより先にユーロを潰そうとしている。ギリシャ国債CDSを売ってギリシャの危機がひどくなっているように演出しつつ、英米などのマスコミも動員して投資家の不安を煽り、時機を見てS&Pがギリシャ国債を格下げし、危機を激化させた。これは要するに、以前の記事「激化する金融世界大戦」に書いたように、英米の金融覇権勢力(米英中心主義)が、覇権の多極化を阻止するために「金融兵器」を発動したものであり、覇権をめぐる金融世界大戦の一部である。 −−−
    • 以下、無料記事
      激化する金融世界大戦
      2010年3月30日  田中 宇


       −−−今年初めからのギリシャ国債危機は、こうした隠れ多極主義的な自滅策に対抗するための、英米中心主義からの(最期の?)反撃である。ユーロ圏が無傷なまま、米英の金融財政が破綻すると、EUは米英の傘下から抜け出て単独の地域覇権勢力として台頭する。それを防ぐために、ユーロ圏内で財政体質が弱いギリシャを皮切りに国債危機を拡大させてユーロを潰し、EUが多極型世界を推進できないようにするのが英米中心主義の戦略だろう。ギリシャ国債危機は、金融世界大戦の戦場の一つである。(第一次大戦はバルカンから始まったが、今回もバルカンからだ) −−−


一方、IMFが融資の条件として債務国に押し付ける 『条件』 はいかに? 昔と変わっていないのではないか?

    • Europe and IMF Agree €110 Billion Financing Plan With Greece より以下抜粋:


      Rigorous fiscal adjustment


      With the budget deficit at 13.6 percent of GDP and public debt at 115 percent in 2009, adjustment is a matter of extreme urgency to avoid the debt spiraling further out of control. Accordingly, the Greek government plans to implement rigorous fiscal measures, far-reaching structural policies, and financial sector reforms. Key elements of the reform package are: (以下、項目のみピックアップ)
      1. Fiscal policies
      2. Government spending
      3. Government revenues
      4. Revenue administration and expenditure control
      5. Financial stability
      6. Entitlement programs
      7. Pension reform
      8. Structural policies
        −−−strengthen labor markets and income policies, improve the business environment, and divest state enterprises.
      9. Military spending
        先日紹介(トルコとのデタント)、大いに結構。大赤字の米英も見習えよな。
    • もうひとつ:
      IMF Executive Board Approves €30 Billion Stand-By Arrangement for Greece より以下抜粋:


      Program Summary


      2) Restoring competitiveness: The program includes nominal wage and benefit cuts and structural reforms to reduce costs and improve price competitiveness, which would help Greece transition to a more investment and export-led growth model. It also envisages improved transparency and a reduced role of the state in the economy. −−−


ちなみに悪名高き ワシントン・コンセンサス - Wikipedia とは;

  1. 財政赤字の是正
  2. 補助金カットなど財政支出の変更
  3. 税制改革
  4. 金利の自由化
  5. 競争力ある為替レート
  6. 貿易の自由化
  7. 直接投資の受け入れ促進
  8. 国営企業の民営化
  9. 規制緩和
  10. 所有権法の確立


で、権威の大好きなひとたちのために、 『2001年ノーベル経済学賞』 を受賞した ジョセフ・E・スティグリッツ - Wikipedia の主張を紹介しておきます;

IMF批判


2002年にはGlobalization and Its Discontents(邦題:世界を不幸にしたグローバリズムの正体)を書き、その中で彼は、グローバリゼーションの必要性は認めた上、反グローバリゼーションはむしろワシントン・コンセンサスへの反対を示すものと見ている。その上、いわゆる東アジアの奇跡は、最小政府を志向するワシントン・コンセンサスに従わなかったからこそ実現したものとしており、ワシントン・コンセンサスに対する疑問を呈している。また同書ではIMF批判が展開されており、IMFの推し進めた資本市場の自由化は、アメリカの金融セクターのために広範な市場を開拓した反面、その本来の使命であるはずのグローバルな経済の安定には寄与しなかったものとしている。またIMFをG7の債権国の代理者と位置づけており、貧しい国々が貧しいままであるような制度設計をしたアメリカ合衆国の金融セクターに対する不満を表した。この本の中で、なぜグローバリゼーションがシアトルやジェノヴァのようなWTOへの抗議活動を発生させたかに関するいくつかの理由を示した。この本は世界で100万部以上売れ、30ヶ国語以上に翻訳された。


さて今回IMFが課した条件は、結局ワシントン・コンセンサスから殆ど進歩が無い様に見受けられます。某国による金融テロ。ギリシャ国民よもっと怒れ、あなたたちのせいではない、と応援したくなる。


今回の騒動に関するギリシャ首相のコメントが紹介されています。悔しいでしょうね;


相変わらず某国による金融テロの性格を帯びているとは思いますが、今回はその 「某国」 もギリシャ以外のEU諸国も皆揃って破たん寸前であるのが恐ろしいところ。さてドル・ユーロのどちらが先にコケるか、コケたら何が起きるか見もの。