ギリシャ危機: 国民が責任を負うべき性格のものなの?
今回の問題はギリシャ政府だけの責任では無く、投機筋・IMF・本来加盟国を積極的に防衛すべき欧州中央銀行の責任も小さくはないな、と感じています。幾つかの記事を紹介;
- 現地リポート 債務危機 そこに生きる人々 6回シリーズ(1/6)
時事ドットコム、日付不明
※ 読みやすいレポートですが、 『−−− 債務危機が、ギリシャ社会に変化を促す兆しがあることも見逃せない。痛みを伴う改革に、「それしか方法がない」「仕方がない」との意見が相次いだ。』 との記載は、全体から見るとごく少数の意見ではないか? 一部国民もその恩恵に預かったのは事実にしても、冒頭に挙げたプレイヤー達の不始末の尻ぬぐいを国民が押し付けられるのはおかしい。自分の身に置き換えてみれば当然。だからデモが起きているのでしょう? 結論ありき、の感が否めません。
- 欧州国債のCDSスプレッドが縮小、独空売り規制発表受け
5月19日4時57分配信 ロイター
※ 参考;
CDS5年物スプレッドの推移。PIIGS5カ国のCDSスプレッド(ポルトガル(青緑)、アイルランド(青)、イタリア(茶色)、ギリシャ(橙)、スペイン(黄緑))の中でギリシャのスプレッドの拡大が突出しているのが分かる。因みにアイスランドは水色。
出典: ギリシャの経済 - Wikipedia
- <欧州中央銀行>国債購入額、1週間で1.9兆円
5月18日10時29分配信 毎日新聞
背景を理解するために、参考となる田中宇さん記事を紹介します。 金融屋や株屋のヒモが付いていませんし、独自の視点から書かれた秀逸な考察と思います。なお有料記事についてはHPで表示されている部分+αの紹介のみ;
- 田中宇の国際ニュース解説
◆ユーロ危機はギリシャでなくドイツの問題 (これは有料記事)
【2010年4月30日】EUは昨秋、大統領と外相ポストを新設し、政治統合に動き出した。オバマもブッシュ同様、英国を邪険にする態度をとっている。米英の財政赤字も急増し、このままでは英米覇権は崩壊だ。そのため英米中心主義の側は、ギリシャ危機を扇動し、ドルの対抗馬となりそうなユーロを潰しにかかる金融戦争を先制攻撃的に起こした。戦争といっても、戦っているのは米英の側だけで、ドイツはほとんど応戦せず、無抵抗でやられているばかりか、利敵行為をする人がドイツ内部に多い。 (以上、HPでの紹介)
※(以下、有料記事の中から最低限抜粋) −−− ギリシャの赤字問題は最近始まったことではなく、悪化が近年特にひどくなったわけでもない。英国が、欧州の覇権をとった後の19世紀前半、トルコ帝国に対抗するための傀儡勢力として近代ギリシャを建国させて以来、ギリシャは産業や社会の基盤が弱く、財政赤字の体質だ。しかもギリシャのGDPはユーロ圏全体の2・5%と小さい。ドイツを筆頭とするユーロ圏の大国群が適切な危機回避策をとっていれば、ギリシャ危機が今のようにユーロ危機に発展することはなかった。
しかしこの問題が危険なのは、ギリシャの危機を扇動しているのが、ゴールドマンサックスやJPモルガンといった米国の投資銀行的な勢力と、S&Pなど米英の格付け機関であることだ。彼らは、ドルやポンドの危機を回避するために、ドルやポンドより先にユーロを潰そうとしている。ギリシャ国債のCDSを売ってギリシャの危機がひどくなっているように演出しつつ、英米などのマスコミも動員して投資家の不安を煽り、時機を見てS&Pがギリシャ国債を格下げし、危機を激化させた。これは要するに、以前の記事「激化する金融世界大戦」に書いたように、英米の金融覇権勢力(米英中心主義)が、覇権の多極化を阻止するために「金融兵器」を発動したものであり、覇権をめぐる金融世界大戦の一部である。 −−−
一方、IMFが融資の条件として債務国に押し付ける 『条件』 はいかに? 昔と変わっていないのではないか?
- Greece and the IMF
Updated May 11, 2010, IMF
- Europe and IMF Agree €110 Billion Financing Plan With Greece より以下抜粋:
Rigorous fiscal adjustment
With the budget deficit at 13.6 percent of GDP and public debt at 115 percent in 2009, adjustment is a matter of extreme urgency to avoid the debt spiraling further out of control. Accordingly, the Greek government plans to implement rigorous fiscal measures, far-reaching structural policies, and financial sector reforms. Key elements of the reform package are: (以下、項目のみピックアップ)
- Fiscal policies
- Government spending
- Government revenues
- Revenue administration and expenditure control
- Financial stability
- Entitlement programs
- Pension reform
- Structural policies
−−−strengthen labor markets and income policies, improve the business environment, and divest state enterprises.- Military spending
先日紹介(トルコとのデタント)、大いに結構。大赤字の米英も見習えよな。
- もうひとつ:
IMF Executive Board Approves €30 Billion Stand-By Arrangement for Greece より以下抜粋:
Program Summary
2) Restoring competitiveness: The program includes nominal wage and benefit cuts and structural reforms to reduce costs and improve price competitiveness, which would help Greece transition to a more investment and export-led growth model. It also envisages improved transparency and a reduced role of the state in the economy. −−−
ちなみに悪名高き ワシントン・コンセンサス - Wikipedia とは;
で、権威の大好きなひとたちのために、 『2001年ノーベル経済学賞』 を受賞した ジョセフ・E・スティグリッツ - Wikipedia の主張を紹介しておきます;IMF批判
2002年にはGlobalization and Its Discontents(邦題:世界を不幸にしたグローバリズムの正体)を書き、その中で彼は、グローバリゼーションの必要性は認めた上、反グローバリゼーションはむしろワシントン・コンセンサスへの反対を示すものと見ている。その上、いわゆる東アジアの奇跡は、最小政府を志向するワシントン・コンセンサスに従わなかったからこそ実現したものとしており、ワシントン・コンセンサスに対する疑問を呈している。また同書ではIMF批判が展開されており、IMFの推し進めた資本市場の自由化は、アメリカの金融セクターのために広範な市場を開拓した反面、その本来の使命であるはずのグローバルな経済の安定には寄与しなかったものとしている。またIMFをG7の債権国の代理者と位置づけており、貧しい国々が貧しいままであるような制度設計をしたアメリカ合衆国の金融セクターに対する不満を表した。この本の中で、なぜグローバリゼーションがシアトルやジェノヴァのようなWTOへの抗議活動を発生させたかに関するいくつかの理由を示した。この本は世界で100万部以上売れ、30ヶ国語以上に翻訳された。
さて今回IMFが課した条件は、結局ワシントン・コンセンサスから殆ど進歩が無い様に見受けられます。某国による金融テロ。ギリシャ国民よもっと怒れ、あなたたちのせいではない、と応援したくなる。
今回の騒動に関するギリシャ首相のコメントが紹介されています。悔しいでしょうね;
- 米投資銀行に法的措置も=ギリシャ首相
5月17日0時57分配信 時事通信
- Greece may consider suing U.S. investment banks for their role in debt crisis
Monday, May 17th 2010, 3:11 PM, NYDailyNews.com
- Just what was Goldman Sachs role in Greek debt debacle? Ben Bernanke demands answers
Reuters Thursday, February 25th 2010, 12:54 PM, NYDailyNews.com (計2ページもの)
- パパンドレウ首相の経歴を紹介;
ゲオルギオス・アンドレアス・パパンドレウ - Wikipedia より;
パパンドレウはアメリカ合衆国ミネソタ州のセントポールに生まれた。当時彼の父アンドレアス・パパンドレウは当地の大学の教官を務めていた。母はアメリカ出身のマーガレット・パパンドレウ 。アムハースト大学卒業後、ストックホルム大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)、ハーバード大学で教育を受けた。アムハースト大学から社会学学士号を、LSEで発達社会学修士号を授与されている。ストックホルムでは移民問題について研究を行っている。1992年から1年間はハーバードで外交研究に関するフェローを務めている。ギリシャ語、英語の他にスウェーデン語にも堪能である。
首相就任
2009年10月4日の総選挙でPASOKが勝利した為、10月6日新首相に就任した。しかし、3000億ドルという巨額の対外債務を抱えたギリシャの財政は危機的状況に陥っており、パパンドレウは「今回の信頼喪失でわれわれの主権が一部失われた」と述べて欧州連合に政治的な支援を要請するなど、政権発足後半年もしないうちに非常に困難な政権運営を余儀なくされている。
- ギリシャ支援策、完全に実施されれば効果を発揮=フィッチ
5月19日4時37分配信 ロイター
−−− ただ、依然としてギリシャ政府債は13年に対国内総生産(GDP)比で約150%に拡大した後、安定化する見込みとし、状況は困難なものとなる、との見通しを示した。
フィッチはギリシャの格付けを「BBBマイナス」、アウトルックは「ネガティブ」としている。
※ 格付け機関も結果として共犯者。
相変わらず某国による金融テロの性格を帯びているとは思いますが、今回はその 「某国」 もギリシャ以外のEU諸国も皆揃って破たん寸前であるのが恐ろしいところ。さてドル・ユーロのどちらが先にコケるか、コケたら何が起きるか見もの。