遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

アハマディネジャド大統領の国連演説紹介

先日ベネズエラチャベス大統領およびリビアカダフィ大佐の演説を紹介しましたから、今日はイランのアハマディネジャド大統領の演説も紹介しておきます。なおこの3国に共通するのは、産油国であること。これは強みですね;

http://www.jiji.com/jc/zc?k=200909/2009092400341
お株奪う「チェンジ」連呼=西側の価値を徹底批判−イラン大統領
(2009/09/24-11:04)  時事ドットコム


−−− アハマディネジャド大統領は冒頭、実利主義が支配しているとする「現状」に矛先を向け、「挫折と失望と全人類にとっての暗たんたる未来以外には何も生み出さない」と攻撃。その後は「抑制の効かない」資本主義やパレスチナに対する「非人道的な政策」などを手当たり次第に非難した。 


「手当たり次第に非難した」 と云う言葉で片付けているが、この記者は演説(原語あるいは英語吹き替え)を良く聴いた、あるいは読んだのだろうか? 他のおふたり (チャベス大統領のが1時間弱、カダフィ大佐のが1時間半強) から比べたら30分強の演説ですから、PDFを読んで御覧なさいな。敬虔なイスラムとして論点をまとめ呼び掛ける、非常によく練られた名文 (演説) と評価します。イスラムキリスト教ユダヤ教はいずれも唯一絶対神を信仰するセム的一神教アブラハムの宗教 (ウィキペディア) も参照) の3兄弟と云う共通点がある一方で、神と人間の関係・救済の対象と救済者など根本的な理解の違いもあり、兄弟間で否定しあっている *1 のも事実の様ですが、世俗レベルで虚心坦懐に読むなら、キリスト教徒でもユダヤ教徒でも感じるところはある筈です。あるいは宗教的な偏見から嫌悪感を抱くだけか。「手当たり次第に非難」 「お株奪う「チェンジ」連呼」 などと云う極めてレベルの低い、低俗な評価をする記者の資質を疑いますね。欧米の基準を信奉しようが盲信しようがそれは個人の勝手ですが、記者のはしくれと思うなら、最低限まず良く読むこと、そしてその内容の背景をよく考え、調べてから記事にすべき。xちゃんねるの誹謗中傷レベルの文章で給料が貰えるなんて、今時珍しいカイシャですね。


国連HP内のイランのアハマディネジャド大統領のページと動画は;

General Debate of the 64th Session (2009) Iran (Islamic Republic of) H.E. Mr. Mahmoud Ahmadinejad, President


ペルシャ語での演説全録画
英語吹き替え
演説全文PDF (英語)


イラン (ウィキペディア)の正式国名は、英語では "Islamic Republic of Iran" 、日本語では 「イラン・イスラム共和国」 、宗教上の最高指導者が国の最高権力を持つイスラム共和制 (ウィキペディア)を採っています。国名にイスラム共和国を掲げる国家とその政体は、ウィキペディアによると;

※似た言葉として、 「イスラム国家」 があります。多分上位概念と思いますが。


政教分離』 の名目に慣れた社会から問題視され安易な攻撃対象となるのが、宗教特有の制限・制約や慣習など。前出ウィキペディアによると、【政治にイスラームが深く根付いた体制のことを指す。イランをはじめとして宗教的非寛容に基づく、信教の自由・表現の自由の制限、非ムスリムへの厳しい差別や女性への人権侵害、性的少数者などへの迫害が見られる場合もある。】 でもよく考えてみると、「宗教的非寛容」 だの 「表現の自由の制限」 だの 「他教徒への差別」 だの 「性的少数者などへの迫害」 って、法律にかかわらず実社会では多かれ少なかれ日本にも欧米にも厳然として存在しますよ。いいや、無い、なんて主張する馬鹿がいたらお目にかかりたい。総論賛成、各論反対の典型。


刑罰については、最近話題になった 「石打 (ウィキペディア) の刑」 やら 「鞭打ち (ウィキペディア)」 、古いところでは 公開処刑 (ウィキペディア) などは確かにイスラム圏に多い様です。死刑に関しては電気椅子、絞首刑の方が受刑者の苦しみを最小限に抑えられるのでしょうが −−− この点、以前にも表明した通り、このブログではこれ以上触れません。


一方宗教からかどうかは今覚えていませんが女性の陰核を切除したり、入墨を入れたり、と云う風習も 『野蛮である』 との理由から廃止させられた筈。人権団体が喜んで飛び付きやすい対象ですね。(ユダヤ教の割礼は問題となっていないみたいですが)


現代社会を成り立たせるためにどうしても止めさせる必要があるなら、私は基本的にはその宗教の体制内で、あるいはその風習を行っている集団の中で解決させるべき問題だろう、と云う気はしています。そのための圧力 --- 何故なのかを納得させ、廃止しないことに対する制裁なり廃止することに対するインセンティブなど提供する --- は正当と思いますが、 『人権』 を振りかざして暴力も辞さず、では、宗教なり集団を侮辱することになり兼ねない。


しかしね、主に無知や外部から獲得した偏見による、他宗教や共産主義社会主義などに対する嫌悪に基づくシカトや、自分達の価値観を振りかざしての問答無用の暴力行為に比べたら、上記全ての 『蛮行・悪習』 なんてかわいいものです。イラン即ちペルシャ帝国は、アメリカなんて新参の田舎者に比べてはるかに長い歴史を持った国です。イスラムによって磨かれる以前のヨーロッパなんて、正に野蛮人の社会だった様です。(スペインのコルドバイスラム文化の欧州の窓口) 産業革命以後相対的に輝きは薄れた、と私は解しますが、では欧米の素晴らしい仕組みは何をもたらしたか? 経済的に世界を征服はしたものの、その飽くなき強欲さによって自分達の住環境を破壊し、その社会の構成員を不幸にしたのではありませんか? 今地球環境がどーたらこーたらとわめいているのは、正にその結果でしょう。 蛇足ながら、 「自然を征服した!!」 などと自慢するアングロサクソンのメンタリティーは私は理解出来ない。考えてごらんなさい、彼らはひとの体を蝕むガン細胞と同じですよ。ガンって進行して人間の体を征服することがありますよね? しかしそれは宿主を殺すことを意味しますから、同時に自分も滅びる。自然は征服するものではなく、自分達が生存させてもらう母体なのにね。


その観点からペルシャ帝国の末裔アハマディネジャド大統領の演説をよく読むべきです。手当たり次第に無責任に批判している訳ではなく、問題とその原因 (の解釈) を明らかにしたうえで、こうしましょうと提言していることは、読めばわかります。勿論その提案内容は、受け入れられる・られない、実現可能・不可能、など様々でしょうが、非常に真摯な演説だった、と私はおもいますよ。


また、アハマディネジャド大統領やチャベス大統領の考える 「チェンジ」 と、オバマ大統領以下欧米が云う 「チェンジ」 は意味が違います。後者は現体制を正としてその中での変革レベルですが、前者は現体制はもう限界である、体制そのものを変えなければダメだ、と云う革命レベルです。「お株を奪う」 なんてものではなく、全く異質のものです。欧米としては、痛みを伴う革命を行うつもりは毛頭無い。自分達の現在の優位性を維持したいでしょうから。(既得権にしがみつく役人みたいなもの)


馬鹿な新聞記者のコメントだけ読んでいると、自分も馬鹿になる。少し背伸びしてオリジナルを読んでみるべきです。本当の原典であるアラビア語ペルシャ語で読むのが勿論イチバンいいのですが、それが出来なければ英語、それが出来なければ日本語、日本語訳されていなければネットの翻訳機能の助けを借りる、など色々選択肢があるのがネットのよいところです。いつもながら、翻訳の果たす役割って、大きいですね。


次回以降、産油国ではない小国 北朝鮮 と キューバ の演説も紹介予定。(結構ホネが折れます) オバマ他欧米の演説はあちこちで紹介されているでしょうから。

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*1:参考まで、私がイスラムを勉強するにあたって基本のガイドとして読んだのは、『 Books Esoterica シリーズ 第14号 イスラム教の本; 唯一神アッラーの最終啓示』 、制作協力・資料提供 イスラミックセンター・ジャパン他、株式会社学習研究社発行、1995年12月20日第一刷、 ISBN4-05-601101-X です。その70ページより以下引用します;

−−− われわれ日本人も含めた非イスラム圏では、とくにキリスト教が長い歴史を通じて広めてきた歪んだイスラム観によって目を曇らされて部分がある。その点は、とくに注意を要することだろう。