遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

翻訳家 山岡朋子さん その46:  ロマンス小説のこと その2

日本語版ウィキペディアでの記事の量と英語版のそれとは、天と地ほどの差があります。以下、英語版 (http://en.wikipedia.org/wiki/Romance_novel) を主に参照して紹介・考察してみようと思います。

  • 英国の作家 Samuel Richardson が1740年に出版した 『Pamela, or Virtue Rewarded』 *1 が最初のロマンス小説と考えられており、1813年同じく英国の Jane Austen による 『Pride and Prejudice』 *2 、1921年英国の Georgette Heyer による最初の歴史ロマンス小説 『The Black Moth 』 と繋がって行き、その10年後に英国の出版社 Mills and Boon *3 が初めてロマンス小説なるカテゴリーのリリースを行ったとのこと。このシリーズを北米で再販したのがハーレクイン社 *4 であり、同社が読者に対するダイレクトマーケティングを展開することで大量販売ルートに書籍を乗せたそうです。英国が産み、ハーレクインが育てた、と云えそうですね。
  • 現代ロマンス小説の始まりは、前回 Jami Alden さんが初めて読んだものとして紹介した Kathleen Woodiwiss さんによる "The Flame and the Flower" と云われています。その後80年代にブームが到来し、サブカテゴリ・出版数も増加。2004年に北米で販売されたペーパーバックの55%を占める最も人気のあるジャンルではあるが、軽蔑されたり懐疑的な目で見られたり批判の対象ともなっている。また、約90言語に翻訳されているとは云え基本的には英語圏の作家によるアングロ・サクソン向けに書かれたもの。
  • 同性愛はどうなのか、純愛ではあるがロミオとジュリエットの様な悲劇的な結末は認めるのか、など様々な議論はある様ですが、RWA (= Romance Writers of America) と出版社の定める一般定義ではロマンチックな関係を展開すること、ハッピーエンドであることのみが求められています。
  • ロマンス小説は大きく Category romance と呼ばれるシリーズもの (各々が概ね200ページ・5万5千語未満の短編) および Single title romance と呼ばれる一冊ものに分類され、さらに細かいサブジャンルも設定されています;


        2006年US市場での比率

      RWA統計
  • サブジャンルについて英語版Wikipediaで紹介されているものは次の通り;
      • Contemporary romance

            舞台が二次大戦後のもの
      • Historical romance

            舞台が二次大戦前のもの
      • Romantic suspense

            『二人だけのレシピ』 はこれ?
      • Paranormal romance

            現実とファンタシー・SFの混合
      • Science Fiction Romance

            2000年以降人気上昇
      • Fantasy Romance

            別名ロマンチック・ファンタジー
      • Time-Travel Romances

            ヒロインが過去へ行ってヒーローと出会う
      • Inspirational romance

            神(キリスト教)関連のテーマ。意外とこれが一番保守的なアメリカらしいものではないか?(私の勝手な想像ですが)
      • Multicultural romance

            アフリカ系アメリカ人あるいは異人種間
      • Erotic Romance

            ポルノとの違いは性行為そのものが目的ではないこと
  • 一方、業界をリードするハーレクイン社HP (http://www.eharlequin.com/store.html) を見ますと、カテゴリ(上述サブジャンルと同義?)として挙げられているのは; African-American, Chick Lit, Contemporary Romance, Erotic Fiction, Fantasy, Historical Fiction, Home & Family, Inspirational, Mystery, Nonfiction, Paranormal, Passion Relationship, Spanish, Suspense & Adventure, Tender Romance, Thriller の計17、


    かつ同社は幾つかの「ライン」をお持ちの様で; HARLEQUIN, SILHOUETTE, SPICE, MIRA, HQN, KIMANI PRESS, STEEPLE HILL, RED DRESS INK, LUNA, WORLDWIDE LIBRARY、 各々にはさらに小分類、例えば SILHOUETTE の場合; - Silhouette Desire, Silhouette Romantic Suspense, Silhouette Special Edition, Silhouette Special Releases, Silhouette Nocturne, Silhouette Nocturne Bites, Silhouette eBooks があります。面白いのは各々について Writing Guidelines (執筆にあたって考慮すべきこと、の意味) が設けられていること。語数はどれ位、メインテーマはこれ、舞台はxxx等。

英語圏」 「アングロサクソン」 のキーワードでカバーされるのはイギリス・オーストラリア・ニュージーランドアメリカ・カナダおよび旧植民地でしょうか、それなりに巨大な市場ですね。ロマンス小説は私にとっては未知の世界ですが、日本でこれに匹敵するのは多分少女漫画でしょう。人気も市場もあるが、一段低いレベルの創作とみなされたり、懐疑的な目で見られたり、批判の対象ともなっている点で共通点もありますし。


ホネが折れますが、引き続き考察を続ける価値がありそう。

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*1:この作品を無料でダウンロード出来るサイトがあります

http://www.gutenberg.org/etext/6124

*2:この作品の無料ダウンロード先は http://www.gutenberg.org/etext/1342

*3:1908年設立の英国の出版社であるが、1971年、長年に渡り非公式なパートナーであったハーレクイン社の傘下に入った。HPは http://www.millsandboon.co.uk/

*4:Harlequin Enterprises Limited 、カナダのトロントに本拠を構え、ロマンス小説および女性向け小説に関しては世界をリードする出版社。