遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

ハイチ大地震: 子どもの人権 --- 震災孤児の問題

戦災孤児 - Wikipedia と云う言葉は知られていますが、 『震災孤児』 はどうでしょうか。保護・擁護を失うきっかけが戦災(人災) か震災 (自然災害) かの違いだけですね。実際、過去の大地震 −−− ジャワ島、四川、インド、イラン、旧いところでは関東大震災 −−− などでもその都度話題に上った筈です。身近なところですと先日15周忌を迎えた阪神大震災に関しては、私は未読ですが例えば;


の様な貴重な証言集も出版されていますし、不完全でしょうが様々な対策が講じられたものと期待します。地域・歴史・文化などの背景は異なるにしても、今回のハイチ復興の過程で役に立つことは多い筈。震災孤児に関する各国での様々な報道を拾ってみますと;

  • http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100122-00000587-san-int
    1月22日18時51分配信 産経新聞


    −−−【ニューヨーク=松尾理也】多数の死者を生んだハイチ大地震で、親や家族を失った孤児たちを引き取る「養子縁組」を求める欧米先進諸国の動きが活発になっている。すでに子供たちがハイチを出て欧米に移る動きが具体化しており、斡旋(あっせん)団体などは、明日の生活がどうなるかもわからない孤児たちにとり先進国に引き取られるのは幸せ、と主張している。一方で、拙速な養子縁組は家族や地域のつながりを引き裂くだけとの批判も強い。 (以下略)
  • Las ONG piden que no se adopte a niños haitianos, aunque las peticiones han "aumentado enormemente"
    MADRID, 22 Ene. (EUROPA PRESS)


    Organizaciones en defensa de la infancia pidieron este jueves que se evite "por todos los medios" las adopciones internacionales de los niños que sufrieron el terremoto de Haití y se encuentran en situación de desamparo, a pesar de ello, aseguraron que en las últimas semanas se ha registrado un "enorme aumento" de las peticiones de adopción, que se cuentan por "miles", según informó el presidente de la Federación de Asociaciones de Adopción Internacional (ADECOP), Miguel Góngora.


    "Es el momento de cooperar. No de adoptar", continuó. Góngora dijo, en declaraciones a Europa Press, que "aunque pueda resultar contradictorio, lo mejor para los niños es permanecer en la isla". En esta afirmación también coincidió el director de la Plataforma de Infancia, Ángel Hernández, que cree que para los menores es "más traumático" sacarles del país, que mantenerlos en "zonas seguras dentro de su entorno".  (中略)


    Otro "peligro" al que se atienen los niños afectados son las mafias, que "aprovechan" este tipo de situaciones para reclutarles y utilizarles con fines sexuales, de explotación, etc. "Llevarse a niños, sin permiso, y más teniendo en cuenta que no se pueden tramitar adopciones en aquellos países de desastre natural o conflicto bélico, es un secuestro", concluyó Góngora. Por ello, pidió que se lleve un "control exhaustivo" de los niños para que no se desplacen, si no es "estrictamente necesario". (以下略)


    スペインのNGO2団体による、 「今求められているのは協力であって養子縁組ではない」 と云う主旨の、拙速な国際養子縁組に反対する声明。この中で、子どもが商品として取り引きされる危険性にも言及あり。2団体については;
  • http://www.crin.org/resources/infodetail.asp?id=21546
    HAITI: Special protection measures needed for children, says UN Committee
    News release, UN OHCHR - Committee on the Rights of the Child
    9/01/2010


    ニュース・リリースを掲載した "CRIN" は、英国で登録されたNGO団体。
  • "Cada día vienen madres para dejar a sus hijos. Pero no puedo acogerlos"
    FRANCISCO PEREGIL | Puerto Príncipe 21/01/2010, ELPAÍS.com


    Una madre de 45 años llegó llorando el miércoles con una niña de tres años al orfanato de Le Coeur de Marie (El Corazón de María), en la capital de Haití. El terremoto mató a sus hijos de ocho y diez años, acabó también con su marido y destruyó su casa. Sólo le quedan unos parientes en la ciudad de Jacmel. Pero no dispone de dinero para el autobús, ni para comer ni para alimentar a la niña. Y sobre todo, no tiene ganas de seguir luchando. Sólo quería dejar allí a su hija.  (中略) La madre se fue llorando, tal como vino.  (以下略)


    昨日ちらっと紹介しましたこの母親のケースは表面的には育児放棄ですが、旦那さんと2人の子どもを失い家も倒壊、親類にも頼れず、残された3歳の女の子を養って行けないので憔悴し切った状態で置いていった訳ですから、現時点では実質孤児と同じでしょう。誰も責められない。孤児院でも子どもをひとり無くしており建物も損壊、水や食料も届かない状態であるために子どもを受け入れられないことを嘆いておられますし、母親だって立ち直ったら引き取れる可能性大ですから、まずこの孤児院を援助するのが先決。 「こんなハイチではダメだ、国際養子縁組で連れ出せ」 と考えるのは 「先進国」 の短絡的な思い上がりです。
  • http://mainichi.jp/select/world/europe/news/20100121k0000m030069000c.html
    1月20日23時36分配信 毎日新聞


    −−− ナオミさんも地震のため自宅の土地が地滑りを起こして家に帰れず、家族と公園で暮らす生活だ。「他に親族が分からなければ、学校にも行かせ、自分の子供と同じように育てていきたい」とナビアソンちゃん (ナオミさんの親友の子ども、親友は死亡) の幸せを願う。と同時に「自分たちの生活も将来どうなるか全く分からない」とため息をついた。


     市内の孤児院メゾン・ド・ルミエールのロバート・テイラーさん(44)によると、まだ市当局や援助機関からの震災孤児の受け入れ要請はないという。「孤児になった子供のほとんどは路上で生活しているだろう。ここではあと数人しか受け入れられない。震災孤児はこれからの大きな問題だ」と話した。


    これは震災孤児をご両親の親友が引き取ったケース。このご家族を援助すべきですね。


ユネスコの言う通り、国際養子縁組はそれ以外のどの選択肢も機能しない場合に限る、最後の手段であると思います。本当に子どもの幸せを第一に考えるなら、被災した保護者のケア、親戚・知人による養育の援助、孤児院 (差別用語でなければよいのですが) など保護施設の拡充・援助、国内での養子縁組などの順で優先度が高いのは当たり前。あっせん団体のやっていることは、その屁理屈と裏腹に、震災のどさくさに紛れてハイチの主権と法を軽視し、ハイチ国民を愚弄し、ハイチの子どもの人権を蹂躙するものだと言わざるを得ません。西半球で初めて自由黒人の共和国ハイチを建国した ハイチ革命 - Wikipedia は、アメリカを含むその後の黒人解放や南米の独立にも大きな影響を与えた輝かしい歴史があります。ハイチは欧米の植民地でもなければ未開の地でもありません。欧米の 「先進国」 気取りの野蛮人は、今まで散々ハイチを食い散らかしてきた上に、更に国の将来まで奪うつもりか?


で、最後の切り札国際養子 - Wikipedia』 について。日本語ウィキペディアは、この件に関する日本のレベルに呼応するかの様に内容がプア過ぎるので英語版をベースに以下簡単な考察を;

  • International adoption - Wikipedia


    このサイトでは法律・体制・手続などの説明がまとめられていますが、国際養子縁組の否定的な面・肯定的な面も紹介されています。否定的な面として挙げられているのは;

    4.1.1 Child trafficking or child laundering (子どもの商品化ですね)

    4.1.2 Loss of culture, family or identity (文化・家族などアイデンティティに関わる部分)


    中核となるルールとして定められているのが、日本は批准していない 『ハーグ条約1993年:国際養子縁組に関する子の保護及び国際協力に関する条約』(下掲)
    • HCCH | #33 - Full text
      33: Convention of 29 May 1993 on Protection of Children and Co-operation in Respect of Intercountry Adoption
      Entry into force: 1-V-1995
      日本語訳されたものもどこかにある筈。
  • 国際養子縁組の闇 野放しになっている日本の養子斡旋業者(1/5) | JBpress(日本ビジネスプレス)
    野放しになっている日本の養子斡旋業者
    2009年11月12日(Thu) 佐川 光晴 / JBpress


     拙著『金色のゆりかご』(光文社)は、「望まない妊娠」と「海外養子斡旋問題」をテーマにした長篇小説である。
     「小説宝石」2007年6月号から2008年1月号まで連載し、2008年6月に単行本として上梓された。
     JBpressのサイト上で私の著者インタビューが公開されているが、ごく短いものでもあり、今回から数回をかけて、『金色のゆりかご』で扱った「望まない妊娠」と「海外養子斡旋問題」について、あらためて考えてみたいと思う。
     小説中には書き切れなかった情報も多くあるので、この機会に多くの皆さんに知っていただきたいと考えている。 (以下略)


    この記事中紹介されている書籍は以下の通り;
    • 金色のゆりかご (単行本) / 佐川光晴 (著)
      単行本: 312ページ / 出版社: 光文社 (2008/6/20)
      ISBN-10: 4334926126 / ISBN-13: 978-4334926120
      発売日: 2008/6/20
    • 赤ちゃんの値段 (単行本) / 高倉 正樹 (著)
      単行本: 254ページ / 出版社: 講談社 (2006/6/20)
      ISBN-10: 4062134845 / ISBN-13: 978-4062134842
      発売日: 2006/6/20
  • http://www.noda-seiko.gr.jp/column/?itemid=63&catid=3
    2007.07.13, 野田聖子オフィシャルホームページ


    −−−皆さんはハーグ条約をご存知でしょうか。正式には「国際養子縁組に関する子の保護及び国際協力に関する条約」と言い、わが国はハーグ国際私法会議構成国の一つです。しかし、いまだに同条約を批准していません。という以前に、日本には国際養子縁組の法律すらありません。そういう条件の下で、日本人の子どもたちが欧米諸国に養子として斡旋されています。そこではどんなことが起こっているのでしょうか。


    欧米の養親希望者たちは日本から養子を迎える理由として、日本国内に法規制がないので、簡単に子どもを養子縁組できることをあげています。現在、わが国で最も懸念される問題点は、養子が海外の養親の元にいく場合、日本政府のチェックが全くと言っていいほど必要がないことであり、さらに、養子を斡旋するときに多額の金銭を養親候補者に請求する斡旋事業者が存在していること、この2点だといわれています。そして、これが、国連・子どもの権利委員会やNGOの間で、日本では国際養子縁組の名のもとに人身売買を行っているという、実に不名誉な評判の所以ともなっているのです。


    養子縁組に係る国際的なトレンドを調べると、先進諸国では通常、自国内で、しかも児童相談所のような施設ではなく、できれば新たに家庭を与える形で、親と一緒に暮らせない要保護児童を育てることが主流になっています。高倉さんも私も、わが国でも今後はこの潮流に従い、可能なかぎり、日本の子どもを海外に出すことなく、日本国内で養子縁組を組めるように従来のマッチングの不備を正していく必要性を痛感しています。少子化が国家的課題であるわが国において、子どもは社会の宝。その宝を一歩間違えば商品化するような形で海外へ斡旋していることを、私たちは見逃してはなりませんし、国・政府としてなんらかの基準を設けるなど措置を講ずることが緊要です。そのためにも、国内法の整備を前提としたハーグ条約の批准を、今後はもっと真剣に議論し、早急に実現することが不可欠です。  (以下略)


    私はこの議員さんの信条に賛同するものではないし、この記事全体に共感するものではありませんが、上に引用した部分は恐らく日本の現状を的確に表していると思います。


国際養子縁組に関して日本は明らかに遅れている様なので、この件に関して 「国際社会」 の中での発言力はゼロ。あっせん団体の行動やらそれにお墨付きを与える様な行為に対する非難は、どこかの先進国を通じて発言してもらうしかありません。それより、下手をすると実際にはハイチよりひどいことになっている様ですから、これを機にハーグ条約の批准を真剣に考えるべきかも。


それにしても http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100122-00001129-yom-int の報道を見てると、いかにも役人らしいコトバだなぁと思います。単に 「御近所に比べて見劣りがしますから何とかしてぇな」 、ってレベル。もっと必死に考えた要請をしろよな、高給取りだろ???役人が無能なら、新政権が標榜する様に政治家が主導してプラン作れば? この混乱した中で、尻馬に乗って援助を声高に叫び、現地で消化不良になり兼ねない量のモノを緊急で送り込む必要は無いと思います。復興段階でお手伝い出来ることは沢山ある筈ですから、ハードウエアの建設と云った土建屋さん的な発想だけではなく、それこそ市民レベルで積み重ねてきたノウハウを提供した方が感謝される筈ですね。阪神大震災の教訓も活きてきますし、犠牲者にとって何よりの弔いになるとおもうのですが。まず率直にハイチ政府に尋ねるのが一番確実かも知れません、カネなんていつでも送れますから。