遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

クルグス (日本での呼称はキルギス共和国) クーデター −−− またぁ?

2009年10月29日付け当ブログ 『旧ソ連圏での 「色革命」 のこと』 中で少しだけ紹介しました、2005年3月の 【チューリップ革命 - Wikipedia】 で アスカル・アカエフ - Wikipedia 大統領を失脚させ政権の座についた クルマンベク・バキエフ - Wikipedia 大統領が、今度は自分がクーデターで国を追われ、臨時政府が樹立された様です;


アメリカのバックアップ無しには成り立たなかったであろうチューリップ革命ですが、今回のクーデターの原因ははバキエフ大統領の独裁・深刻な経済危機やら国内での利害対立などの様で、結局振り出しに戻った感があります。西側が正と考える民主主義だの自由主義だのが根付く基盤が無かった、あるいはそもそもそんなものは機能しない事情があったのでしょう。今回は相当数の方々が亡くなられましたから、チューリップは無駄どころかマイナスの結果しかもたらさなかった、と私は思います。


ウィキペディアで紹介されている北海道大学スラブ研究センターの研究報告集 『21COE研究教育拠点形成 スラブ・ユーラシア学の構築 中域圏の形成と地球化』 より以下参照;

「民主化革命」とは何だったのか:グルジア、ウクライナ、クルグズスタン
研究報告集 No.16 / 2006.8 より、

  • 第3章 クルグズスタン(キルギス)の革命 −エリートの離合集散と社会ネットワークの動員 (PDF)


    −−−「街頭政治」の形で大衆が政治参加し、末期症状に陥った政権を倒すことは、民主主義の意味を政治家と国民に再認識させる効果を持つが、それが民主政治の制度化に結びつくかどうかは別問題である。むしろ、政治家が個別的な利益に沿って大衆を動員するという、革命を可能にした行動様式そのものが、革命後も政治エリートの統合を難しくし、政権内外の対立を社会不安に結びつきやすくさせているという側面を指摘しておかなければならない。
  • 第4章 グルジア・ウクライナ・クルグズスタン三国「革命」の比較 (PDF)


    −−− 清新に見えた政権がやがて腐敗して、「ピープル・パワー革命」が何度も繰り返されるという事態はフィリピンでおなじみのものだが、グルジアウクライナ、クルグズスタンの場合も、当事者能力を低下させながらも新しい勢力への交替を認めようとしなかった政権が、社会・経済的なネットワークの動員によって倒されたという面と、政治体制としては一定の振幅の中での揺れにとどまったという面の両方を見る必要がある。根本的な変革でも単なる政変でもない、それなりに広い社会層の直接行動によって行われる政権交代をどう分析するかは、「革命」という言葉を使うか否かは別としても、政治研究者が意識していくべき問題だと思われる。


さすがに専門家らしい分析、2006年時点での論文ですが今日現在もそのまま有効。


私の稚拙な 「感じ」 で付け加えるなら、世界中で経済が低迷どころか破綻しつつある中、「上級者」と同じ土俵で戦わざるを得ない「初〜中級者」 は絶対的に不利。経済先進国、特にスーパーパワーと呼ばれる大国が自国の利益だけを考えた政策を押し付けた結果、進展国の経済は破綻させられ大半の国民の生活は悪化の一途をたどっている筈で、まさに経済的弱肉強食が展開していると思います。ハイチやアフリカがいい例。いや、経済的先進国の中でも同じかも知れない。


極端な言い方をすれば、国民がそこそこ食って行ければ (=餓えることは無い状態) 、別に国家の体制がどうであろうと多少の不便があろうと、国民が血を流してまで政権をひっくり返そうなどどは思わない筈。終戦後の日本は先達の血の滲む様な苦労があって餓えの無い安定した社会を実現した訳ですが、でもその苦労が実ったのはその果実を買ってくれる市場があったからと云えます。でも今、そんなおおらかな市場はありません。安くて安全で質のよいものしか買ってくれないのが当たり前の世界には、弱者の出番が無い。これ、市場至上主義の弊害と思います。


そこそこ食って行ければ、隣人がどんな肌の色であろうが、どんな民族であろうが、どんな神様を信じようが、アカだろうがアオだろうが、互いにおかしな干渉さえしなければ、些細ないざこざは避けられないにしても紛争なんて起こらない。まして殺し合いなんて。昔は平和に共存出来ていたでしょ?−−−と云う地域が結構ありますよね。


民主主義だの自由経済だの、たとえそれが正しいとしても、餓えが支配する限り無力・無意味。もっと言うなら、西 (あるいは北) 側では絶対善と考えられている意味での 「自由」 なんて、いのちを賭ける価値などありません。衣食足りて礼節を知ると言いますから、まずそのレベルまで引き上げることが必要、そのためにはハンデが必要不可欠です。援助、援助と言いながら結局回り回って強者の得にしかならない政策は機能しない。その観点から 「国際社会」 が対応しない限り、また何年か後には更に血生臭い政権交代や紛争が起きるでしょうね。


私がその様な地域で生まれなかったのは本当にラッキーだったとしか言えません。大統領は小型機で逃げた様ですが、逃げ場無く亡くなられた方々の冥福を祈ります。