遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

中村哲さん著 『アフガニスタンで考える − 国際貢献と憲法9条』 のこと、 ついでにオバマ新政権の軍事政策 Watch: その16

本年8月26日付け、アフガニスタンで亡くなられた伊藤和也さんの1周忌追悼の際紹介しました以下書籍を読んで感じたところを;


カラー版 アフガニスタンで考える―国際貢献憲法九条 (岩波ブックレット) (単行本)
  中村 哲 (著)
出版社: 岩波書店 (2006/04) 発売日: 2006/04
ISBN-10: 4000093738 ISBN-13: 978-4000093736


まず、このブックレット (A5サイズ、写真ページも含めて54ページですから、ざっと読むだけなら1時間かかりません) は3年前に出版されたものですが、今日現在でも内容は陳腐化していないどころか、ますますその価値は増しています。アタマの干からびたセンセイや研究者が象牙の塔 (このコトバはもう死語かな?) に籠って書いたものでも、エセ文化人達の無意味なマスターベーションでもなく、中村さんが正に命がけで命を救おうと無我夢中で過ごされた21年間 (執筆当時) の中で身をもって学ばれたことが書いてあります。正に千金の値打ちがある。


本の構成は;


やれ国際貢献憲法だと云うと、大半は重箱の隅をつつく様な屁理屈や美辞麗句・絵空事が並んだものばかりですが、中村さんのはどのページを読んでも、現実に基づくだけあってシンプルで文に力があります。歴史を理解することの重要性、現地を理解しようとしないことによる先進国の外国人 (一応日本も含みます) の犯す勘違い、国際援助の実態、先進国が与えたと勘違いしている「自由」の実態、情報操作、現地からの訴えが届かないもどかしさなど、現実が並んでいます。アタマではわかっているつもりでも、実際にやってみてはじめてわかることがある。「現地のひとによる、現地の人のための」 とは一体どんなことなのか? とかね。この小冊子を読むメリットは、わかったつもりになることではなく、中村さんの経験やそれに基づく考え方を少しでも共有すること、そして自分の行動の参考にすることだと思います。


また特筆すべきなのは、中村さんの経験はアフガニスタンに特化されていますが、これだけ長く・深く関わられたためでしょうが内容に普遍性があると云うこと。質・量ともに比較にはなりませんが、私が南米で無我夢中で暮らした時に漠然と感じたことが明確に文章になっているのに驚きましたね。(私の能力の問題かも)


で、この小冊子を読んだ目的は、先日記した様に 『--- 平和精神を活かすのであれば、日本に出来る真の意味での国際貢献を考えるに当たって、ひょっとすると中村哲さん・ペシャワール会の行っている事業が一つの基準になるのではないか、と推測・期待』 したことです。結論は、期待通りでした。最後の章 「アフガニスタンの未来、日本の未来」 (冊子50・51ページ) から以下引用します。これだけ読んだのではネタばらしにはならないとおもいますので;

−−− しかし、経済の活性化が、人殺しをしてまで豊かさを守ろうとすることならば、少なくとも私は豊かになりたいとは思いません。


 このアフガニスタンでの活動を通して私たちは、 「国際貢献」 というのは、単に人を助けるということではないのだ、ということを実感しました。 「情けは人の為ならず」 と言いますが、私たち自身が、そこから学ぶべきことのほうが多いのです。


 このアフガニスタンでの事業をおこなうことによって、少なくとも私は、世界中を席巻している迷信から自由でいられるのです。世界中の人がとらわれている、その迷信とは何でしょうか。


 それは、一つには、お金さえあれば幸せになれる、経済さえ豊かであれば幸せになれる、というものです。先ほど述べたように、貧しいアフガニスタンの人びとの顔は、けっして暗くはありません。


 そして、もう一つは、武力があれば、軍事力があれば、自分の身を守れる、という迷信です。武力が安全をもたらすものかどうか。丸腰でおこなう用水路建設での私たちの経験が教えてくれます。このような、実体験によって、私たちは、幸いにも、この強力な迷信から自由です。 *1


 そして、その迷信から自由であることによって、人間が追い込まれ、極限状態になったときに、これだけは必要だというものはいったい何なのか、逆に、これはなくていい、というものは何なのか、そういうことを考えることができます。アフガニスタンの活動で、その答えのヒントをもらったような気がしています。このことを考えることは、今の日本にとっても、必要なことなのではないでしょうか。


この小冊子はまだ何度も繰り返し読んでみるつもり。


で、以下アフガニスタンの最新状況Watch;

  • http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090830-00000004-cnn-int

    カルザイ氏とアブドラ氏の得票差拡大 アフガン大統領選

    8月30日15時24分配信 CNN.co.jp より抜粋


    カブール(CNN) アフガニスタン選挙管理委員会が29日発表した大統領選の中間集計結果は、再選を狙うカルザイ大統領の得票率が46%、後を追うアブドラ元外相が31%と、両候補の差が一層拡大している。 (中略)


    こうしたなか不服審査委員会(ECC)は今週、投票日からこれまでに受け付けた選挙不正の申し立てが1740件に達したことを明らかにした。このうち270件は重大な不正の疑いがあるという。


8月10日付け 『オバマ新政権の軍事政策 Watch: その14 アフガン戦闘激化 〜 イラクの二の舞』 で紹介した通りにコトが展開しています。即ち 【「決選投票に持ち込めば米国の支持が得られる」(アブドラ陣営)とカルザイ氏へのネガティブキャンペーンを強める戦術だ。】 で、アメリカから決選投票を露骨に勧められたカルザイ氏が激怒するのは無理もない。また、 『不正と暴力に悩まされたアフガン大統領選』 のうち少なくとも不正に関してはアメリカの都合のよい様にアメリカによって直接・間接的に仕組まれたものと考えてもそう間違いではなさそう。


一体アメリカのやっていることに何の意義があるのか、疑問は強まるばかり。本日の選挙で日本の政権が交替 (いや、後退かな?) したとしてもこの国の隷属は続きそうですから、中村さんは当面孤軍奮闘せざるを得ないのでしょう。我々有権者のレベルも低過ぎるのは事実。有権者のレベル以上の政府はあり得ませんから。やはり現憲法と云うより平和精神は、現在の日本にとっては立派過ぎますね。ナントカの持ち腐れ、xxに真珠。押し付けられたものなんて、所詮こんなものかも知れません。 (こうなることを見越して押し付けることが出来るほどの切れ者の作文では無かったでしょうから)


ところで以前にも似たような記事を紹介しましたが、また以下記事が掲載されました。堂々と主張出来るのだろうか? それとも相変わらず媚を売るつもり?

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090830-00000066-san-int
鳩山論文「米に敵対的」 米専門家から異議と失望
8月30日7時56分配信 産経新聞  より抜粋


−−− 論文についてアジア専門の元政府高官は「米国に対し非常に敵対的であり、警戒すべき見方だ」とみる。米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のニコラス・セーチェーニ日本部副部長は「第一印象は非常に重要で、論文は民主党政権に関心をもつ米国人を困惑させるだけだ」と批判。「(論文を読んだ)人々は、日本は世界経済が抱える問題の解決に積極的な役割を果たすつもりはない、と思うだろう。失望させられる」としている。

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*1:この後、伊藤和也さんが犯罪の犠牲となられたのは残念ですが、それでもこのスタンスは変えるべきではないと私は思います。武器を持っていても避けられなかったでしょうから。