遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

知らずに麻薬の運び屋になったなら無罪 −−− 日本は運び屋の天国

週末、溜まりに溜まった麻薬関連ネタ記事の整理および色々なサイトを見ていましたら、とんでもない記事が (海外関連のみ注目していたため気付くのが遅れましたが);

覚せい剤密輸無罪、裁判員裁判で検察初の控訴へ
(2010年7月3日03時02分 読売新聞)


−−−1審・千葉地裁裁判員裁判では初の全面無罪判決 (中略) について、検察当局は2日、「1審判決には事実誤認がある」として、東京高裁に控訴する方針を固めた。


 昨年5月の制度施行以来、600件以上の裁判員裁判の判決が出ているが、検察側の控訴は初めてとなる。 (以下略)


参考 ⇒ 読売新聞 特集 薬物連鎖


麻薬密輸に関し裁判員裁判で初の無罪、検察による控訴、いずれも確かに画期的なこと。この件に関しては色々な観方がある様です。弁護士さんのコメントを挙げるなら;



覚せい剤輸入事件、裁判員の判断に相次いで「異議!」 弁護士小森榮の薬物問題ノート-ウェブリブログ


  −−−「覚せい剤を運ぶとは知らなかった」「書類だといわれた」「土産ものを届けてほしいといわれた」・・・、被告人の多くがこのように主張します。
さて、こうした事件では、被告人が「覚せい剤」について認識していたかが、裁判のポイントになるのですが、明快な決め手に乏しく、薬物の隠匿状況、税関検査時の様子、被告人の主張の変化などを突き合わせて、微妙な判断をしていくことになります。


  裁判員裁判で出された判断に対して、検察官による控訴申し立てや、控訴審裁判員らが下した判決が破棄されたりする例が、先週、相次いで報じられました。
でも、これが「運び屋」による薬物輸入事件の宿命だと、私は思います。もともと、決め手を欠くことが多いのが、この種事件の特徴なのです。 (以下略)


覚せい剤密輸事件|薬物犯罪組織の真実4 弁護士小森榮の薬物問題ノート-ウェブリブログ

WEB市民の司法〜裁判に憲法を!〜【今週の発言】


【参考: 薬物関係 判例集

裁判員裁判・判決例 薬物関連法で裁判員裁判対象となる罪の判決例

コラム 覚せい剤取締法、麻薬特例法違反などの罪での量刑例



検察に対する世間一般のイメージは残念ながら良いとはいえず、私も以前紹介した山崎淑子さんのケースなどもあって肩を持つつもりはないものの、上掲弁護士さんコメントにある様に、 『覗くことの出来ない人の心の中』 が争われる難しいケースと思います。検察・被告ともに立証には大きな困難が伴うと考えられる。


上掲判例集裁判員裁判での最新の薬物関連として掲載されている No.118 (千葉地裁10/29有罪判決) について調べて見ますと;



コーヒー袋に覚せい剤、被告に懲役9年6月
  (2010年10月29日22時39分 読売新聞)

   −−−栃木力裁判長は懲役9年6月、罰金450万円(求刑・懲役13年、罰金800万円)の実刑判決を言い渡した。弁護側は即日控訴した。

   被告は「現地を案内してくれた人物から日本にいる『イノウエ』へのお土産として袋を預かっただけ」と無罪を主張していたが、判決は「『袋の中身はコーヒーと信じていた』という供述は信用できない」と退けた。


コーヒー袋の覚せい剤密輸、被告が無罪主張 (読売新聞)
  [ 2010年10月27日1時00分 ]

 覚せい剤約3・7キロをコーヒーのパッケージに隠して香港から成田空港に持ち込んだとして、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などに問われた (中略) 被告(46)に対する裁判員裁判の初公判が26日、千葉地裁(栃木力裁判長)であった。



量刑不当ならまだしも、えん罪だ、検察の捜査はデタラメだ、被害者だ、とのことで控訴しているのでしょうが、私はどうも引っかかるところがあり到底賛同出来ない。思うところを以下順不同に吐き出すと;

  • たとえ 『知らなかった』 としても、麻薬の運び屋になってしまった 「結果責任」 はどこへ行ったのか? 上掲無罪判決以外に何か措置はあったのか? あるいは「不始末」とはいえ麻薬が市場に出回ったワケではないから何の責任も発生しないのか?
  • 3.7キロって、ハンパな量ではありません。覚せい剤の比重は不勉強で知りませんが、コーヒーなら1キロパックを4つですよ。よくスーツケースに入ったなと思う位。それに香港って、何か名物のレアなコーヒ−ってありましたっけ? いいオトナが何の疑問も持たなかったのか?
  • 『知らずに麻薬の運び屋になったら無罪』 が定着してしまうと、日本が麻薬の中継点あるいは 「新規大市場」 になり兼ねない。そりゃそうでしょう、捕まる国によっては死刑であることさえ覚悟の上で運び屋をやる人間が後をたたない状況下、知らぬ存ぜぬを押し通せば無罪になるのであれば、皆日本を使いたがる。過去の判例見る限り、余程のことが無き限り今でさえ罰金・懲役刑で済むのですし。正に運び屋ヘブン。
  • 無罪の判例が一般化すると、各国での日本行き乗客あるいは日本人の荷物チェックインが異常に厳しくなるのではないか。と云うより、日本は麻薬に寛大な国だ、とのイメージが定着しますね。(既にしていると思いますが)
  • 今年コロンビアへ行った際は色々面倒な事情があってどうであったのかよく覚えていませんが、以前航空会社に手荷物チェックインの際、必ず口頭か書面で、『預ける荷物は全て自分でパッキングした、他人からの預かり物は無い』 ことを宣誓させられた記憶があります。今でもその手続が有効であるなら、 『善意の運び屋さん』 は、まずそこで嘘を付いていることになりませんか?
  • 『知らずに運んだ』 のが麻薬であれば、バレてトラブルに巻き込まれるのは当人だけですが、中身が爆弾だったらどうするの? 馬鹿な当人だけではなく、何百人の人間を巻き添えにするのですよ。それでも 『無罪』 なのでしょうか?
  • 『善意の運び屋さん』 と思われるケースでの罪状を見ると、『覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの罪』 しかない様ですが、これで良いのか? 『善意』 (=ある事実を知らないこと) の運び屋さんは営利目的で輸入しているとは言い難いですからね。当該法律は読んでいませんが、現状に合わせて見直す必要はないのか? 現在アメリカ様の加州でマリワナ合法化の動きもあり、合法化された場合同国内でさえ扱いが難しいと思われますが、これが日本に入って来ることを防げるのか? (そういや、EU内で唯一オランダだけマリフアナが合法化されています。この対応はどうなっているのだろう?)
  • この種の事件は、裁判員裁判にそぐわないのでは? あるいは逆かな? 上掲山崎淑子さんのインタビュービデオの中にあったと記憶しますが、陪審員制度の定着したアメリカ様の場合、陪審員裁判に持ち込まれるのを避けるため、司法取引によって罪を認めてしまう傾向がある様です。


−−− 信じていた人から騙された、知らなかったから、検察の挙げる証拠が不完全 (被告・検察とも完全な立証は不可能) だから即無罪、おかしくありませんか? 国際空港で係官から 『ダメですよぉ、知らなかったとは云え麻薬なんて運んじゃぁ。次回から気を付けて下さいねぇ ♪』 って、かなり異様な光景。 悪意を持ってこのテを銃火器など御禁制の品持ちこみやら航空機テロに使えるのですよ。平和と云うか、呑気な国です。コロンビアやメキシコなど 『供給側』 では、麻薬に関連する殺戮行為がエスカレートし、多数の、真の意味で罪の無い人間が犠牲となっています。私は今まで何度か主張した様に、「需要無ければ供給無し」 と考えます。需要側での大甘の措置が麻薬問題の根源のひとつと考えますがね。無邪気に?無罪を主張する人たちは認識などしていないでしょう。そうそう、某有名ホテル創業者ご一族のご令嬢も最近また麻薬で捕まりましたが、確か社会奉仕xx時間で放免。一方で供給を断て、と要求したって、そりゃぁ出来ない相談。