遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

翻訳家 山岡朋子さん その94  『ルス』 の照らす闇: 日本の場合 〜 赤ちゃんポスト

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昨年採り上げたこの話題は、山岡朋子さん (横山朋子さん名) 翻訳の 『ルス、闇を照らす者』 に描かれた軍政による赤ちゃん奪取とは全く事情が異なります。しかしこの小説そのものには幾つかの切り口があり、 『子供たちが自分の出自がわからず苦しむ』 と云う観点から相通ずるものがありますので、敢えてこの題名で紹介することに;


 <赤ちゃんポスト>10日で5年 問われる匿名運用
   毎日新聞 5月9日(水)8時5分配信


   −−−同病院の蓮田太二理事長らは8日に記者会見し、受け入れた子供の身元を判明させる努力をしつつ、匿名での運用を続ける考えを改めて示した。 / 病院が受け入れた子供は07年5月〜11年9月の約4年半で81人。蓮田理事長は会見で、「人に妊娠・出産を知られたくないという思いの強い人が来るのだから、匿名での受け入れは必要です」と強調した。更に4、5月に福岡で乳児の遺棄事件が相次いだことに触れ、「(匿名では受け入れてくれないと)誤解されていないか心配だ」とも語った。 (中略)


   09年まで熊本県の検証会議座長を務めた柏女霊峰(かしわめ・れいほう)・淑徳大教授は、受け入れ後に身元を特定させる現在の運営方法について一定の評価をする。匿名で受け入れても、再び実親の家庭に戻る子供が増えているためだ。「(ポスト利用の)理由は安易だったかもしれないが、親も変わっていくきっかけになっている。受け入れ後に限りなく身元不明ゼロにすることは、病院と行政の努力のしどころです」と語った。 (中略)


   帝塚山大の才村(さいむら)眞理教授(児童福祉論)は「匿名での提供を受けて生まれ育った子供たちは自分の出自がわからず、苦しんでいる。だから、親が誰か、なぜ育てられないのかがわからないままとなる『ゆりかご』の匿名には反対です」。 (以下略、引用終わり)



 こうのとりのゆりかご - 熊本県熊本市 産婦人科 無痛分娩 慈恵病院 外科 消化器科 肛門科 内科 小児科


    昨年紹介時からurlが変わっています。


上掲記事中のコメントは、当然ながら立場によって異なりますね。匿名での受け入れに関して、純粋な大学のセンセイ (≒理論家) はあるべき論、運営者は現実論、評価者はその両方と言えるでしょうか。別に 「議論を着地させる」 必要はないでしょう、3者が牽制し合って? 緊張感を維持しながらちいさないのちを守り育てることが大事とおもう。


匿名でも受け入れてくれるこの仕組みが無ければどうなるか? 主に経済的に切羽詰まり、誰にも相談出来ず、 (実際そんなことは無いのだけれど) 助けても貰えないと思い込んで流産を試みる、公園の公衆トイレで産み落として放置する、おぞましいハナシではあるが生ゴミとして捨てる、自宅で虐待して永遠に黙らせる −−− 結局警察沙汰となり、幸いにしていのちの火が消える前に発見されれば、病院やら施設で面倒を見ざるを得ませんよね?


では積極的に、と云うより何の規制も監視も無く赤ちゃんポストを乱立させたら何が起きるか?


  「赤ちゃん工場」を摘発=少女らに出産させ売り飛ばす―ナイジェリア
    時事通信 4月15日(日)6時25分配信

  大規模な人身売買組織を摘発、誘拐されていた児童178人を救出―中国
    配信日時:2011年12月8日 12時5分、レコードチャイナ


現在正しいと思われている 『自由な』 『資本主義』 のリクツを相当捻じ曲げて言うなら、これらの犯罪者には罪悪感は殆ど無い筈です。何故って、彼らの言い分はきっと 『子供が欲しいお客様がいて、一方では子供は欲しくないお客様がいる。我々は正当な対価を頂いてその橋渡しをしているだけ』 、つまりカネ万能。民間企業なんて、そこまでヒドくは無いにしても所詮そんなものです。斡旋による営利行為。いのちさえ例外では無い。


また、赤ちゃんポストでも解決しない問題はあります。上掲記事の最後で院長先生が 『誰から生まれたかではなく誰に育てられたかが重要と社会が理解し、養子を特別視しなくなった時に、匿名性と出自の問題はなくなるのではないでしょうか』 とおっしゃっていますが、上掲才村眞理教授ご指摘の出自の問題だけは多分解決しない; 私は誰なんだ? 何故捨てられたのか? これは卵子精子提供者を含む産みの親と話しが出来ない限り、宗教をもってしても答えは出せないでしょう。


ただ、経済の低迷によって真っ先に犠牲になるのは、立場の弱い人達です。特に赤ちゃんは全く無力。赤ちゃんポストがベストでは無いと言うなら、どう守りましょうか???