遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

エジプト 騒乱 その9: ネットメディア

今回のムバラク辞めろ騒動に関するアメリカ・日本など 「西側先進国」 でのメディアの報道・発信を見ていて、いつものことながら非常に違和感を感じています。西側は自分たちの選んだ代表者を通じて自国が独裁者を支持することでエジプト (をはじめとする中東・アフリカ地域や中南米などの) 国民を侮辱し続けて来た事実・経緯については知らん顔をする一方、ある局面では確かに効果のあったであろうネットやらSNSの明るい面だけに殊更にスポットを当て、 『独裁者との戦い』 の上っ面だけに自己陶酔しているとしか思えない。 『ネットが独裁政府を倒した』 なんて聞くと、エジプトやチュニジア国民を馬鹿にするな、と思ってしまいます。




【「タハリールの英雄」 に祀り上げられたワエル・ゴニムさん】


冷静にインタビューやら報道記事を読む限り、このワエル・ゴニムさんは確かに数多いエジプト人活動家のひとりでしょう。誠実で野心家でもある様子。でも下掲の活動家 (ごく一部) 以上のものでもない。デモ中に狙い撃ちされたのか、集団で逮捕された中にたまたまいらっしゃったのかはよくわかりませんが、 「エジプト (正確にはドバイ?) のグーグル幹部」 の肩書によりニュースバリューがあって大きく採り上げられるのは当然としても、では Google はどう関わっているのか? ゴニムさんはインタビューなどで Google は世界一の会社、と言っていますが、それは単に彼の愛社精神アメリカと云うシステムの信奉者であることを示すに過ぎず、Google として行った行動ではあり得ませんね。同社は検索エンジン等の大手サービスプロバイダではありますが、政治結社ではありません。同社は公式コメントを出していないと思いますが、結果として、ゴニムさんの英雄的な行為を自社宣伝に利用していることになると思います。(あるいは Google フリークが勝手に宣伝しているか) 一方ゴニムさんにとって、 Google の名前やアメリカ人と結婚していることは、リアルの世界ではこの先大きなネガにもなり得る。お前もアメリカの手先か、と言われ兼ねないから。損得を考えると、どうなんでしょうねぇ;


  Wael Ghonim - Wikipedia


Egyptian activist creates image issues for Google
  SAN FRANCISCO (Reuters), Feb.12, 2011 @ Yahoo! News


  −−−Despite its association with the events in Egypt, Google has not commented on the politics of the country's upheaval.


   Instead, it has focused on values surrounding freedom of information and the Internet. "We're incredibly proud to see Googlers take a stand on those issues," spokeswoman Jill Hazelbaker said on Friday, when asked about Ghonim. (以下略、引用終わり)


Truthdigger of the Week: Wael Ghonim
  Posted on Feb 11, 2011, Truthdig


民主化のため「死ぬ用意ある」=タハリールの英雄、CNNと会見
  時事通信 2月10日(木)20時35分配信


  Wael Ghonim: Negotiation days with Mubarak are over
    CNN February 10, 2011 -- Updated 1147 GMT (1947 HKT)


エジプト デモ再燃の背景にグーグル幹部 誠実な訴え共感
  毎日新聞 2月9日(水)10時44分配信


  グーグル幹部解放へ―エジプト反政府デモの立役者か
    2011年 2月 7日 14:54 JST, The Wall Street Journal, Japan Online Edition


“The Heroes are the Ones in the Street”: Google Exec and Facebook Activist Wael Ghonim on His Release After 12 Days in Egyptian Jail
  February 08, 2011, DEMOCRACY NOW !


Google Hero Wael Ghonim Vows to 'Not Abandon Our Demand' That Mubarak Quit
  CAIRO, Egypt Feb. 8, 2011, ABC News


A New Leader for Egypt's Protesters?
  FEBRUARY 8, 2011, Foreign Policy


【他 エジプトの活動家】


Asmaa Mahfouz & the YouTube Video that Helped Spark the Egyptian Uprising
  February 08, 2011, DEMOCRACY NOW !


   2月5日の記事 で紹介の Asmaa Mahfouz さんへのインタビュー。

  Asmaa Mahfouz - Wikipedia


Egyptian Activist Known as 'Sandmonkey' Reveals Identity After Police Beating
  Feb. 7, 2011, ABC News


  Rantings of a Sandmonkey


速報874号 エジプトの若者からのメッセージ
  2011-1-31 1:43:21, Translators United for Peace (昨日 紹介したサイト)


  ※ ビデオも掲載されています。なお翻訳前書きにある様に、誰がこの記事を書いて発信したのかは不明。なんちゃってエジプト若者なら、国外からの扇動記事ってことになりますが。


   オリジナル記事


Support the People's Revolution in Egypt
  ساند ثورة الشعب في مصر
Change.org


   "Started by: The January 25 Movement" とありますが、素性がよくわからない。サインしろと云うが、胡散臭い?


【ネットメディアに関する考察など】


How the Higher-education Bubble Is Fueling Revolts in Tunisia and Egypt
  Friday, 11 February 2011 16:59, The New American Magazine


   いわゆる 『地元の大卒エリート』 に関する面白い観方。彼らは間違いなくネット文化にどっぷり浸かっている筈ですから、チュニジアやエジプトなどでのメッセージ発信の中心となっているでしょう。


New, Old Media Play Key Role In Egypt
  February 4, 2011, NPR


Social Media’s Role in the Egyptian Protests
  January 28, 2011, BlogWorld Expo Blog


Clinton Defends Facebook, Twitter Amid Egypt Protests
  January 27, 2011, 3:43 AM EST, Businessweek


  −−−By urging Egypt’s government “not to prevent peaceful protests or block communications, including on social media,” Clinton in Washington renewed her call for freedom of expression and assembly online, and fueled debate over how to promote those goals without undermining other U.S. interests. (あまりに馬鹿馬鹿しいので以下略、引用終わり)


First thoughts on Tunisia and the role of the Internet
  Friday, January 14, 2011 - 2:16 PM, Net Effect @ FP (Foreign Policy)


U.S. Has Secret Tools to Force Internet on Dictators
  February 7, 2011 7:00 am, Danger Room @ Wired.com


  −−−The U.S. military has no shortage of devices — many of them classified — that could restore connectivity to a restive populace cut off from the outside world by its rulers. It’s an attractive option for policymakers who want an option for future Egypts, between doing nothing and sending in the Marines. And it might give teeth to the Obama administration’s demand that foreign governments consider internet access an inviolable human right. (以下略、引用終わり)


   『人権』 などと云うおよそアメリカに似合わないタワゴトはどうでもよいが、これが出来るなら、逆にネットの遮断も情報操作も可能、と云うことになります。クラッキングによるイラン原発ダウンが可能なら、処理を暴走させ大事故を引き起こせるのと同じこと。猫も杓子もネットだITだと盲目的に奔走していますが、それで大丈夫? ネットにアクセス出来なくても別に死にやしませんが、ネット接続を前提に動いているクリティカルなデバイスやらインフラはそうとは限らない。 フェイルセーフ - Wikipedia の考え方が必要不可欠でしょうね。



非常に優れているものの、ネットはあくまでデジタル情報を交換する道具に過ぎません。このブログもそうですが、発信は実に簡単。しかしそれで人が動かせるかどうかは別問題です。幾らネットおたくやら活動家やら思想家が美辞麗句や高邁な理想をちりばめて発信しても、小さな動きさえ起動出来ない。チュニジア・エジプト・周辺国に限らず発信が力を持つのは、数多くの受け手の共感が得られた時です。「独裁者を倒せ」、皆賛成、皆共感。別にネットでなくとも、チラシでも電話リレーでも街頭演説でも構わない。今回のエジプト騒乱では、恐らくあるタイミング以降、ネットでの発信が威力を発揮したのでしょうけど。


で、 「皆の望み通り」 独裁者は退出。大成功、お祝い、おめでとう!! しかしその後は? 多数が共感出来るような発信が尽きたため、混乱状態でしょう。『自由』 だの 『民主主義』 なんてコトバほど曖昧で恣意的に解釈出来るものはないので。若い人たちやネットのパワーを否定・過小評価するものではないが、それは全体の中のごく一部に過ぎない。リアルの世界では、コトバの裏付けとなる仕組みやら行動と云った 「実体」 が無ければ何も動かない。国境が存在しないのはバーチャルの世界の中の一部だけだし。


これから先の動きの中で、ネットメディアがどこまで、どんなカタチで、チカラを発揮出来るのか出来ないのか、にも興味があります。