遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

オバマの金融テロ その1: 米国債

アメリカは自分達のやっていることを棚に上げて気軽に 『テロリズム』 と云うコトバを使いますので、見習うことに。金融 『テロ』 は直接的にひとを殺す訳ではありませんが、一国の経済や産業構造に深刻な影響を与えます。最近の例を見ていると、アメリカがIMFや世銀、WTOなどを通じて世界中に展開したシステムはいまだ健在の様子;

【ハイチ大震災時】 (2010年01月16日記事中で紹介)

  • Haiti Didn't Become a Poor Nation All on Its Own -- The U.S's Hidden Role in the Disaster
    By Carl Lindskoog, AlterNet. Posted January 15, 2010


    −−−今回の震災についてUS大手メディアは 「ポルトーフランスは人口過密であるうえに安普請の家を安易に建てたことで被害が拡大した。長年に渡る開発の停滞と政治的混乱が原因である」 と云う論調で報道しているが、これは片手落ち。ハイチは57年〜71年の間反共産主義者としてアメリカに支援されたパパ・ドクの圧政下におかれ、続くベビードク時代 -- 60年代〜70年代 -- にはアメリカ政府・産業界と組んでハイチおよびポルトーフランスを今の様にしてしまったことを忘れてはならない。伝統的な農業を破壊して 「市場経済に沿った輸出志向」 へ変換させ、一方 「援助」 の名の下アメリカの過剰農産物の処理場にしてしまった。職を求めて首都に流れ込む人口は増え続けたが、アメリカおよびハイチのエリートはその政策をいとも簡単に捨ててしまった結果が今のハイチ−−−


【ユーロ危機】


EU経済危機に関しては、 「借金で首が回らなくなったのだから支出を切り詰めるのは当然」 、と誰でも思いますよね? でも考えて見ると、世界中でこのコトバが最も当てはまるのはアメリカですよ。いわゆる中間以上の層は 「身の丈」 以上の生活をし、巨額の赤字に縛られること無くオバマは気の遠くなるような戦費を計上しています。台所は火の車であるのにそんなカネが一体どこから出てくるのか? そのカラクリを説明しているのが、2009年11月17日に紹介した;

  • 帝国主義国家アメリカの内幕
    マイケル ハドソン (著), Michael Hudson (原著), 広津 倫子 (翻訳)
    出版社: 徳間書店 (2002/05)
    ISBN-10: 4198615209 / ISBN-13: 978-4198615208


現在この著書を、翻訳と英語の原書 (なにしろアタマが不自由ゆえ、立派過ぎる翻訳のわかりにくいところを原文で確認) を平行して読んでいます。初出が1972年、最新の改訂 (追加) が2002年ですからもう8年前の書籍ですが、恐らく過渡期と思われる今日現在でも世界情勢を理解するには大変役に立つものと思います。


2002年に追加された序文 *1 から以下抜粋します;

−−− パキスタン政府がわずかな収入を外国の債権者への支払いにあてざるをえなくなったのは、結局のところ何年か前のIMFの ”付帯条件” のせいだった。外貨調達にあたり、IMFのアドバイザーたちが繰り返したのは、過去五十年間ワシントン・コンセンサス (アメリカ政府、IMF世界銀行などによって唱導された経済的綱領で、民営化、規制緩和、自由化を強調し市場至上主義的傾向が強い) の核心となってきたフレーズだ。パキスタン政府は、外国の債権者に支払うためさらに多くの収入を ”とりのける” べく、緊縮財政を実施するよう指図をうけたのである。


 特に腹立たしく思えるのは、アメリカ国際開発局 (AID) が債権者となっていることだ。現在 ”対外援助” と称されているものは、主として、ドルで払わねばならない貸付の形を取っている。そこでパキスタンは、国内収入を国民の教育に振り向けることをやめてまでも、外国の債権者に支払わざるをえない。公教育システムとそれにかかわる文化活動を奪い去るのは、子供たちに読み書きを教える役割を宗教教育施設に任せることにほかならない。そういう施設こそが、 ”学生” を意味するタリバンなのである。ワシントンが押しつけたそういう緊縮財政に対する返答が激しい憤りであり、それが最も顕著な形で爆発した場所が、あのニューヨークの世界貿易センタービルをワシントンのペンタゴンだった。 −−−


上掲最後の部分は賛同し兼ねますが、現在のユーロ危機に際しての対応と反応を見ていると、上掲パキスタンと事情は異なるでしょうが、ああ、またか、と思わざるを得ません。私が駆け出しのサラリーマンだった1980年代後半、事情はよくわかりませんでしたが中南米で毎日見聞きした通りのことが再び展開している様な気がしてならない。余談ですが、ハイチの現状 (ハイチ 大地震から4ヶ月 今も200万人が避難生活、5月13日16時15分配信 CNN.co.jp) 見ていると、アメリカなど鳴り物入りで全面援助を打ち出したにもかかわらず何も解決していない。結局アメリカの国益しか考えていないから、援助のカネは米国企業経由少し膨らんでアメリカに還流しているだけなのでしょう。


アメリカ政府による 「史上最大かつよく出来たペテン」 について限られたスペース内で簡潔に要約出来るだけ私は消化し切れてはおりませんから、是非上掲書籍の一読をおススメします。ホネが折れますが、それだけの価値はあります。現在巷にあふれるレポートなど、企業のヒモ付きであったり、 「危機はチャンス、投資の絶好の機会」 的な販売目的であったりで、問題の本質の理解には役に立ちそうにありませんから。


−◇−◇−◇−◇−

で、日本について。2009年11月17日付け 【日本の米国債保有 その2】 の続きとして、米国債について幾つかの記事を紹介。上掲書籍 *2 からもう一度抜粋しますと−−−

−−− 一方ドルが過剰になっている国々に対しては、アメリカは先例のない新たな威圧手段を用いることを学んでいた。こちらのはったりに挑戦してみるがいい。国際経済は通貨危機に投げ込まれることになるぞというのだ。債権国が米国債を買うことで黒字の蓄積をアメリカに流入させなければ、この脅しが実現するかもしれないのだった。 −−−


既に国際経済は、ドル・ユーロと云う2強通貨の危機に投げ込まれている、と解します。保有する米国債が紙クズとなる (既になっていますが、どこまで下がるかわかりませんから評価損も立て様がない?) ことも想定しておかないと、日本は親亀とともにコケてしまう;

    1. 短期国債(Treasury Bills : 2, 3日〜52週間の割引債)
    2. 中期国債(Treasury Notes : 2, 3, 5, 7, 10年物の利付債)
    3. 長期国債(Treasury Bonds : 30年物の利付債)
    • 概要


      アメリカ合衆国政府に対する信頼により市場が形成されており、極めて高い流動性を有する。流動性の高さからドル建外貨準備の主要な投資先となっている。


      戦争や経済危機などの際は「有事のドル買い」に併せて米国債市場への資金流入が起きる傾向が強い。また米国債金利長期金利の世界的な指標である。


      この記述はあまりに旧過ぎる −−−


保有米国債を売る・売らない・売れない・売るべきでないなど様々な議論がなされていますが、さて結局どうするのか? (順不同に紹介)

  • 世界観の転機 ー メビュウスの輪 5
    2010-02-10 10:55「真相解明」のマニュアル


    1984年から1995年にかけて米国大和銀行ニューヨーク支店が行った米国債売却をめぐって重大事件として扱われた事件があった。


     表面上は不正取引事件という扱いだが、その実「規制していた米国債売却」を大和銀行が行ったということのようであった。何故、米国債売却が悪いのか、問題にされなければならないのか。 このことは、「アメリカという国の資本主義が崩壊し、既に国家倒産している」という事だったのだ。それを表面化させたくない金融資本のおもわくがあの形で表面化したのであった。 −−−


    この件は 『企業の不祥事と内部統制』 の例として引き合いに出されるしその意義を否定するものでは無いが、やはり 『虎の尾を踏んだ』 ことへの見せしめと云う側面も重要と思っています。損失の隠ぺい工作があったなら確かに問題ですが、所詮アメリカの金融・司法システムなんてカネ次第。アメリカの大銀行の様に、高いカネを払ってエキスパートの弁護士やらロビイストを雇い、(ザル)法の網を巧みにかいくぐって「スマート」に立ち回らなきゃ。


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*1:上掲翻訳書の5・6ページ

*2:上掲翻訳書の49ページ