遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

キューバ を毛嫌い・食わず嫌いする前に:その3  ストリートチルドレン

先日紹介のキューバの人気ブロガーである Yoani Sánchez さんが、一時身柄を拘束され暴行を受けた、との報道があります。このテの記事には飛び付くCNNはまだ報道していませんけど;


元となったブログ記事は;


「黄色ナンバーの黒塗り中国製の車に乗った体格のよい3人組」 と云うだけで誰が犯人かは特定されていないものの、反政府的な言動を繰り返すジャーナリストでありブログの主宰者である Yoani Sánchez さんとその仲間を脅すのは、当然政府であろうとの前提ですね。(多分そうなのでしょうが) Yoani さんが求めるのは、当然ながら;

10月19日付けブログ Las notas del nuevo himno より抜粋

  • Libertad de opinión (表現の自由
  • Libertad de acceso a Internet (インターネットへのアクセスの自由)
  • Libertad para entrar y salir de Cuba (キューバ出入国の自由)
  • Libertad de asociación (結社の自由)
  • Libertad para los presos de consciencia (政治犯・思想犯の解放)
  • Libertad para Cuba (キューバの自由)

自由を束縛する政府は悪であるとは言っていないものの、ネットを介して自由を求める声の輪を大きくしようと呼びかけていますね。こんな自由も無いキューバは、では地獄なのか?


昨日のブログで工藤律子さん(文)+篠田有史さん(写真)のコンビで出版された幾つかの書籍を紹介したうち、 『子どもは未来の開拓者(ピオネーロ)』 *1 では、副題 『ストリートチルドレンのいない国 キューバ』 として教育制度のコンパクトな紹介がなされています。この分野での参考書籍としては、吉田太郎さん著のシリーズもの 『世界がキューバの高学力に注目するわけ』 *2 あたりがよさそう。


『子どもは未来の開拓者(ピオネーロ)』 では、以下項目が紹介されています;

以下目次ページより抜粋;

  1. 子供らしく生きられない今
  2. キューバ革命」がもたらしたもの
  3. 保育園から大学まで --- 無料の保育と教育
  4. 子どもだって、社会の一員
  5. キューバが抱える「不自由」
  6. 私たちはクバーノス(キューバ人)!
  7. 子どもらしく生きられるために

あとがき


上掲第5章が示す通り、皮肉なことに、障害をお持ちの子どもも含めて現実を分析・批判する力を身に付けたがゆえに様々な不自由がよく見える、と云うことが起こる。 Yoani さんの様に、出国が許されないので他国をご存じ無いもののジャーナリストとしての経験が更に加われば尚更のこと。


革命後半世紀に渡ってキューバがその独自性を保ってこられたのは、その地理的要因 -- 日本同様、国境が全て海 -- を活かして鎖国に近いことが出来たため、と私は考えています。 Yoani さんが、隣国アメリカの特に中南米での外交の歴史と政策をどの程度認識されているかは近々ご本人にメールで問い合わせてみようと考えていますが、キューバ出入国・結社の自由を認めれば何が起こるかは火を見るより明らかです。キューバ政府が喜んで自由を束縛しているとは思えません。(これもいつも言いますが、自分の首を絞めるだけですから)


我々は皆、無いものネダリをしますね。例えば、日本で現在許されている程度の自由があって、収入も少なくとも現状維持で、かつキューバの教育・医療・リサイクルの仕組みもあればそれは最高でしょう。よくある笑い話 「アメリカの家に住み、日本人の妻を持ち、フランスの食事をするのが最高の生活。日本の家に住み、イギリスの食事を取り、アメリカ人の妻を持つのが最悪の生活」 とか、 「アメリカの給料をもらい、イギリスの邸宅に住み、中国人のコックを雇い、日本人を妻にするのが最高の生活。中国の給料をもらい、日本の住宅に住み、イギリス人のコックを雇い、アメリカ人を妻にするのが最悪の生活」 同様、本質的にその実現は無理だろうと思います。


無料での国民皆教育や医療の仕組みは、キューバの現体制下でのみ存在可能ではないか?


そりゃあ、馬鹿高い税金を払えば日本でだって実現可能でしょう。でも払えますか? あるいはあなたや私は別に困っていないのに、払ってでもその社会正義を実現したいですか? キューバや江戸の先進的なリサイクルの仕組みだって、モノが無いと云う現実に対応する為にどうしても必要だから出来るでのあって、今の日本やアメリカの様にモノを浪費するパラダイムから抜け出さない限り、絶対に実現不可能です。例えば 「エコ商品」 なんて大して環境改善には役立ちません。その商品そのものはなるほどエコかも知れません。でも大型耐久財の場合、そのエコ商品を購入するためには、手持ちのエコではない製品を処分しなければならないのですよ。皆そんなに広ぉ〜〜〜いおうちに住んではいませんから。その処分のコストや環境負荷は考慮されてませんよね??? またメーカーが製品を開発・生産・販売するためには、採算がとれることが絶対条件。企業努力で吸収出来るところも勿論ありますが、最終的には価格に転嫁されます。高くてもそのカネを払う覚悟はありますか?また、メーカーは買い替え需要に期待します。ひとつの商品が (昔の様に) 20年も30年ももったのでは商売になりません。何か、少し旧くなった電化製品の修理の見積取ってご覧なさい。私などお店から、 「お客さん、買い替えたほうが安上がりですよ」 と呆れた様に言われたことが何回あったか。本当に環境を考慮しなければ、などと云う切迫感は、先進国にはありません。自分の胸に手を当てて考えてみればわかること。


キューバの全てが悪では無い、と思います。国際社会 (特にアメリカ) が直接・間接の内政干渉を行わない、国家の主権を尊重すると云う当たり前のことが確保されるなら、 Yoani さんの要求は吞まれるべきです。でも現状それは有り得ないハナシですね。何をそれこそ命がけで守らなければならないのか、がキーでしょう。とにかく私は自由が欲しい、そのためには社会正義は多少犠牲になっても構わない、と云うことなら、ストリートチルドレンの問題は永遠に無くなりません。キューバ国民はある意味、「自由と民主主義を守る」 と云う美名の下でのアメリカのスマートな暴力に対して免疫がありません。免疫細胞の役目を果たしている? フィデルやラウル亡き後、キューバは恐らく他中南米・カリブ並みの国になるでしょう。その時、現在キューバが真に世界に誇れるシステムがどうなるのか、見ものです。


最近、東西ドイツ統一20周年を控え、様々な報道がなされています。例えば;

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091105-00000602-san-int
「壁」崩壊から20年、埋まらない東西格差
11月5日19時52分配信 産経新聞


■旧東独への「オスタルジー」も


 東西ドイツ分断の象徴だった「ベルリンの壁」崩壊から9日で20年を迎える。この間、旧東独地域の生活水準は上昇したが、失業率は旧西独地域の2倍以上という東西格差は解消できないまま。表向きの平等が保たれていた東独時代を懐かしむ「オスタルジー」現象も広がっているが、壁崩壊の導火線となった旧東独地域ライプチヒの「月曜デモ」を主導した市民は「自由のために良心を貫く大切さを次世代に伝えたい」と訴えている。(ライプチヒ 木村正人) (以下略)


この記事は、旧体制では 「表向きの平等が保たれていただけ」 として自由の尊さを賛美する論調です。それを否定するつもりも旧体制を賛美するつもりも私にはありません。ただし実際に、旧ソ連や東独を懐かしむ声も少なくないことは忘れてはならない。恐らくその大半は、「当時は貧しくて不自由であったが、飢え死にすることはなかったのに」 に集約される筈です。まさに 「西側」 の 「自由市場の原理」 が置き去りにしている領域。日本も第二次大戦後に大戦前の全てを否定してしまいました。その弊害も素直に見直すべきですね。現在の我々の仕組みが最終形の善であるから振り返ることは無意味と考えるのは、硬直化した証拠です。


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*1:A5 単行本: 72ページ / 出版社: JULA出版局 (2005/08)
ISBN-10: 488284124X / ISBN-13: 978-4882841241
発売日: 2005/08

*2:単行本: 339ページ / 出版社: 築地書館 (2008/10/9)
ISBN-10: 4806713740 / ISBN-13: 978-4806713746
発売日: 2008/10/9