遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

アメリカの保守主義: 世界中に紛争を撒き散らす癌

アメリカの外交政策を理解する (注:賛同する、の意味では無い) に当たってキーとなるのは、民主党共和党の違いを超えた、アメリカと云う巨大なシステムの根底に流れる保守主義だろう、と考えています。伝統的にオバマ大統領の 民主党 (ウィキペディア)リベラル共和党 (ウィキペディア)保守のイメージがありますが、外交政策を観ていると必ずしも当てはまらない様なので;

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091103-00000061-san-int
オバマ“失政”で保守復活 草の根保守組織 キーンACU会長 *1
11月3日7時56分配信 産経新聞 より抜粋


−−− 「米国の保守主義の内容自体は1970年代、80年代から変わっていない。源流にさかのぼれば、まず第一に経済保守主義として政府のパワーや役割をできるだけ制限し、税金を減らし、政府支出を減らすことがよいという思考だ。経済活動も官より民に重点をおくべきだとする。第二に国防保守主義がある。その基盤にはソ連共産党支配のような非民主主義の全体主義体制に強く反発し、米国らしい自由と民主主義を堅固に守るべきだとする。第三に伝統・社会保守主義がある。米国の建国や憲法の成り立ちをみても個人の自由や権利を強調し、政府の権限を制約している。 (以下略)


この 「保守主義」 なるものは、経済的には平均以上の白人のキリスト教徒の考えの様に思えます。それがどの様に機能しようがしまいがアメリカ国民の決めることですから知ったことではありませんが、こと外交となるとそうは行かない。国家と国民の関わりを規定する 「保守」 の考えを外交にも当て嵌めてくれさえすれば、世界中の紛争の大半は解決するのですが−−−


私は主に中南米からアメリカと云う国を観ています --- つまりアメリ外交政策のアウトプットを観ている --- から、アメリカ保守については虫食い程度にしか知識がありません。以下幾つか興味を惹いた記事を紹介;

中岡望の目からウロコのアメリカ » アメリカの保守主義をどう理解すべきか より抜粋
2004/12/4 Saturday  の記事より抜粋


−−−ところが、「保守主義」が主張する「小さな政府」「自己責任」「自由競争」「私的財産の尊重」は、そうした経済効率性の議論の中から生まれたものではないのです。保守主義の主張は、彼らの「個人と国家との関係」から出てきているのです。それは、保守主義者の世界観、国家間、人間観から出てきた主張なのです。 (中略)


−−−では、国家に対してどういう形で自分たちのアイデンティティーを守っていくかといったとき、小さい国家論や個人の自己責任の議論が出てくるのです。また、私有財産を強調するのも、国家権力の市民生活や市場への介入を排除するために主張されるのです。実はこれは古い話ではなくて、減税などの政策に今でも大きな影響を与えているのです。保守主義者が減税を主張するのは、単に税負担を軽減するというのではなく、税金そのものが私有権の侵害であると考えるのです。アメリカでは相続税は廃止する方向にありますが、それも国家の財産権の侵害だという考えがベースにあるのです。草創期の保守主義者の考え方は、今でもずっと続いているわけです。 (中略)


−−−ハイエクは『隷属への道』という有名な本を書いていますが、国家に依存することは最終的に個人が国家に従属することになると主張しています。その考え方が、大きな政府福祉国家論への批判と結びついていくのです。国家権力が増大ずると、最終的に人々は国家に隷属することになり、自由を失ってしまう。だから、国家に対して自分たちは自己責任を持たなければいけないというのが、その基本的なメッセージです。これは経済的自由主義者であるリベルタリアンの考え方です。 (中略)


−−−ブッシュ大統領は裁判所によって選ばれた大統領でした。大統領選挙でフロリダ州の投票を巡る問題で最高裁が下した判決によってやっと大統領になれたわけです。だから、政権発足当時、ブッシュ大統領の人気は非常に低かった。レーガン減税に匹敵する大幅減税などを実施しているのですが、人気は盛り上がってこなかった。しかし、9月11日の連続テロ事件以降、ブッシュ大統領は“強い大統領”になったのです。アメリカ人は、強い大統領を尊敬します。大統領は、強くなければいけないんですね。ある評論家は、「9月11日の連続テロ事件によってブッシュは初めて本当の大統領になった」と書いています。それまでは、多くのアメリカ人はブッシュを胡散臭い人物と見ていたのです。対テロ政策でブッシュ大統領は極めて強硬な政策を取り、非常に強い大統領になっていくのですね。 (中略)


−−−だから、イラク問題を巡る議論は、50年代、60年代の保守主義者が繰り返し主張してきたことが、現実的な現象となって現われたのです。たとえば、保守主義者は50年代から国際機関は信用できないし、発展途上国でも同じ一票を持つ国際機関にアメリカの命運を委ねるべきではないと主張していました。そういう保守主義者のロジックからいけば、ブッシュ政権イラク問題で国連決議を無視するというのは当然だったのです。何も今始まったわけではないし、ブッシュ政権だけの特徴でもないわけです。 (中略)


−−−彼らの持っている「十字軍的な情熱」、アメリカは「グレート・エクスペリメント(偉大なる実験)」を行なっている国であり、アメリカは神によって託された理想国家であり、その理想を世界に広げることはアメリカの使命であるという考えは、おそらく微動だにしていないのではないでしょうか。イラク戦争の失敗で、世界観を変えるとは考えられません。繰り返しですけれども、彼らの持つ世界観、人間観、宇宙観、神に対する考え、そういったものを全部が、彼らの政策の背景にあるのです。イラクで頓挫したからとか、世論の支持を失ったとか、人気が下がったらという観点からだけでは、アメリカの保守主義者の行動を理解することはできないでしょう。 (中略)


−−−もう1つ繰り返しますけれども、選挙の結果はどうあれ、かりブッシュが負けたとしても、50年代後半から続いている大きな保守化の流れは変わらないと思います。民主党政権になっても、その保守化の大きな流れの中からは新しい政策は出てこないと思います。ということは、ある意味では、どちらが勝っても政策的には五十歩百歩ということになるでしょう。外交政策でも、大きな変化は多分ないでしょう


上掲中、 「アメリカは神によって託された理想国家であり、その理想を世界に広げることはアメリカの使命であると云う考えは微動だにしていない」 と云う点、芝居がかっていますが意外と本質を突いているのかも知れません。何しろ;

http://www.jiji.com/jc/zc?k=200909/2009091300077
ダーウィン映画、米で上映見送り=根強い進化論への批判
(2009/09/13-14:49) 時事ドットコム


−−−米配給会社は「米国民にとって矛盾が多過ぎる」と配給を拒否した。米国人の多くが「神が人間を創造した」とするキリスト教の教義を固く信じている。ある調査では、米国で進化論を信じるのは39%にすぎず、ダーウィンにも「人種差別主義者」との批判があるという。 (以下略)


ダーウィンの進化論は崩せない様な気がしますが、ひょっとすると、宇宙は地球ならぬアメリカを中心に回っている、と云う 「天動説」 を信ずるアメリカ人も多いのでは? 冗談は別として、 「アメリカは神によって託された理想国家であり、その理想を世界に広げることはアメリカの使命である」 なんてのは、タチの悪い、あのカルト集団の考えと同じとしか思えない。 「国家権力が増大ずると、最終的に人々は国家に隷属することになり、自由を失ってしまう。だから、国家に対して自分たちは自己責任を持たなければいけないというのが、その基本」 ならば、外交にもそのままあてはめてくれれば問題は無いのに; 「アメリカ一国の権力が増大ずると、最終的に他国はアメリカに隷属することになり、自由を失ってしまう。だから、世界に対して各々の国が自己責任を持たなければいけない」 なら何ら問題は無い。自分だって、たとえ大きな政府による福祉を享受出来るとしても隷属はイヤなんでしょ? ならば他国だって同じ;

アメリカの保守主義はどうなるか――リベラル派オバマ氏の当選で より抜粋
2008/11/08 05:40 ステージ風発
国際政治の中心・ワシントンなどでの長年にわたる取材・報道活動で培った目を通じ、米国や中国の動向をはじめとした、日々動き続ける世界情勢を読み解く。

    • 政府の民間への介入を最小限に抑える「小さな政府」を推し、減税とともに自由競争や自助努力を重視する。
    • 対外的には軍事力による抑止や自由民主主義に基づく外交を重んじる。
    • 社会的には個人の自由、伝統的な価値観の保持を唱える。
    • 実際の政治の場では共和党の政策や思想とほぼ合致する。
  • いまの保守主義の後退はブッシュ政権が政府の民間への介入や支出を拡大して『大きな政府』を実行し、保守の原則から逸脱したことにも大きな原因があるため、保守全体としてはブッシュ政権の退陣後にはまた息を吹き返せる


     草の根保守運動のゴッドファーザーと呼ばれる長老活動家のリチャード・ビグリー氏 *2 が米紙に語っていた。


     同氏は保守派が疎外され、孤立していた1960年代半ばから草の根保守運動の組織づくりに努めた伝説的な人物である。
  • アイヤーズ氏らが保守派、共和党の明るい展望を強調するのは、大統領選挙で全体票の46%強の5680万票がマケイン候補に投じられたことや、投票時の全米出口調査では自分を保守主義者とみなすと答えた人が全体の34%と、リベラル派だと答えた22%を大きく上回ったことも理由のようだった。


     だから保守の思想や政策自体が米国民多数派から完全に拒否されたわけではない、というのである。


     だが、その行方は野党に回る共和党側がオバマ政権にどこまで効果的に挑めるのかに一重にかかっている。


参考まで、オバマ民主党予備選大統領候補であった時の論文が公開されています。もう2年以上前のものですが;

アメリカのリーダーシップを刷新する / Renewing American Leadership
バラク・オバマ/米民主党予備選大統領候補
フォーリン・アフェアーズ日本語版2007年7月号 より抜粋


−−−アメリカの使命は、『世界が安全保障と人間性を共有している』という理解に根ざしたグローバルなリーダーシップを提供することにほかならない。アメリカの時代はまだ終わっていない。だが、新たなパワーを確立しなければならない。アメリカのパワーが衰退に向けて低下しているとみなすのは、世界におけるアメリカの任務と歴史的目的を無視することになる。私が大統領になれば、就任した当日からそうした任務と目的の刷新に取り組んでいく (中略)


小見出し
  アメリカの新しいリーダーシップ
  イラクからの撤退を
  パレスチナ、イラン問題への路線
  米軍の再活性化を
  核拡散をいかに阻止するか
  グローバルなテロとの戦い
  国際的パートナーシップの再構築
  公正、安全、民主的な社会構築を
  アメリカを再生するには


引用の冒頭に示した部分は、正にアメリ保守主義の外交の考え方そのもの。大統領に就任して何を言っている・やっている (やっていない) にしろ、オバマの考える外交の本質は子ブッシュと大差無し。(この フォーリン・アフェアーズ (ウィキペディア) と云う論文雑誌はアメリカの外交政策決定の「奥の院」ともいうべき 外交問題評議会: CFR (ウィキペディア) の発行するもので、 「世界を動かす、今後のアメリカの外交政策が読み取れる」 とさえ評されるものですから、どこぞのまにふぇすとレベルの論文では有り得ないのでね。)


想像ですが、女性やマイノリティーや社会的弱者の意見は必ずしもこの 「保守主義」 の形成の過程で反映されていないのでは? 現在そこそこの地位と収入があり、それを失うことを何より恐れる小心の白人男の身勝手としか私には映りません。経済的に力を持つ一握りの勢力がアメとムチによって大多数の国民を騙して民主主義を演じているだけの国、と言うと言い過ぎでしょうか? そんな 「癌」 が世界を征服した時、宿主である世界とともにアメリカも崩壊するのですが。キリスト教徒なら (でなくとも)、 『黄金律』 は知ってるよね?


「他人にしてもらいたいと思うような行為をせよ」


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