遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

IMF・世銀は変わるのか?

IMF (国際通貨基金/ウィキペディア)世銀 (世界銀行/ウィキペディア) 総会が開催されていたイスタンブールでの抗議活動が紹介されておりました。今月に入ってからの関連報道は;

  • http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091006-00000117-jij-int
    IMF副専務理事に篠原前財務官=日本、3代続けてポスト守る
    10月6日19時2分配信 時事通信


    −−− 日本は3人いるIMFの副専務理事のうち「アジア枠」について、97年に旧大蔵省出身の杉崎重光・元証券取引等監視委員会事務局長が就任して以来、3代にわたりポストを占めることになった。同ポストには中国も関心を示していたとされるが、日本は米国に次ぐ第2位のIMF出資国であることも考慮されたとみられる。 (以下略)
  • http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-11801520091005
    ブラジル、100億ドルのIMF債を購入へ
    009年 10月 5日 21:33 JST ロイター


    −−− 財務相はまた、強化された国家財政やインフレ抑制を背景に経済が過去10年で大幅に改善したブラジルにとり、今回の決定は大きな転換点になると指摘。


     「ブラジルにとってこれはIMFへの最初の融資」とし「われわれは債務国から債権国に転換しつつあり、歴史的な瞬間だ」との見方を示した。


本来共同して国際金融秩序の根幹を成すべき両機関ですが、実質 「米国の世界戦略の道具 (後述の田中宇さん記事より)」 に過ぎず、特にIMFが融資に当たって進展国に押し付けた悪名高き 『ワシントン・コンセンサス (ウィキペディア)*1 に基づく条件でどれだけ自分達の社会が破壊されたかを知っていれば、過激な抗議行動に至るのは当たり前ですね。


私自身、82年のメキシコ政府による債務不履行宣言から中南米全体に拡がった債務危機が、更に調整の失敗から「失われた10年」とよばれる経済危機に陥った時期に正に中南米と関わり始めかつ中南米の中心的な債務国のひとつで暮らしましたから、鮮明に覚えています。 (とは云っても当時はネンネでしたから仕方が無いのかなぁ、と思っていましたが、押し付けられた政策では何も解決はしないだろう、と云うことは感じていましたね。)


この問題に関する日本の対応、と云うか報道は、日本の地位を維持したとか中国に抜かれると云った旧態依然としたもので、このままでは金融の分野でも置いてけぼりを食うことは明らかです。アメリカのためにカネだけ出している訳ですから、 「貴重な」 サイレント・パートナーと云うよりお財布。外交に関しても世界経済に関しても、アメリカ従属以外の明確な基本政策が無いのが最大の問題。


先日国連に関する記事の中でも触れましたが、この分野でも同じ理由で中国に期待しています。虎視眈々と世界の覇権国となることを狙っているトンでもない国なのかも知れませんが、西側/北/自由主義経済圏/先進国側に堂々と対抗出来る国が他にありますか? 資源をネラっているのかも知れませんが、実際に進展国に入り込んで (私は検証していないが報道によると) 主権や尊厳を損ねること無く援助や開発を行っている国がほかにありますか? 先日紹介のペシャワール会の様に、日本のNGOも政府も現地に感謝されてもおかしくはない内容と規模の援助は行っている筈ですが、殆ど認識されていません。発言力が無い、と云う以前に、某国を気遣ってか発言なり主張をしないから。ポリシーが無いこととの悪循環ですね。


以下、田中宇さんの最近の記事をひとつ紹介します。さすがにジャーナリストらしい観点で書かれた出色の記事と評価しますが、少し先走っている様な気はします。「多極化」 が田中宇さんの主張のキーワードと解しますが、方向性としては正しいものの、現実世界が付いて行くにはまだ相当の時間がかかるのでは? アメリカが現在の覇権をそう簡単に手放すとは思えない。上掲IMF・世銀関連の記事中 「国際通貨基金IMF)は、新たな投資バブルを発見するため厳しい監視を行うとともに、加盟国の為替政策が世界経済の不均衡是正という目標に沿っているかどうかの実態を把握するべき」 との主張は、現体制の下では、アメリカ以外での投資バブルは許さない、と読めますから、総スカンを食らうこと間違いナシなので; 

http://tanakanews.com/091006G20.htm
G20は世界政府になる
2009年10月6日  田中 宇


 9月25日に米国ピッツバーグでG20サミットが開かれ、世界の経済政策を決定する最重要の国際機関の地位がG8からG20に移ったことが宣言された。その後を追うように10月5日、トルコのイスタンブールIMF世界銀行の年次総会が開かれた。そしてIMF総会をめぐる報道の中で、G20サミット開催時にはよく見えなかったG20台頭の意味が、いろいろと見えてきた。 (中略)


死に体のG7


−−− IMF総会直前の10月3日には、G7財務相中央銀行総裁会議イスタンブールで開かれた。G20に役割を奪われたG7は、この会議で解散を決めるのではないかと米財務省の元高官(Tim Adams)は言っていたが、とりあえずは存続した。だがG7は、為替について突っ込んだ声明は出さなかった。そうした役割は、すでにG20に移っている。G7人民元の切り上げを求めたが、これは中国に「早く覇権国になってくれ」と言っているようなものだ。(Group of Seven fights irrelevance in new world order


 G7翌日の10月4日には、東京で自民党中川昭一財務相が「死因不明」で急死した。中川氏は今年2月、財務相としてイタリアでのG7会議に参加したが、その時の記者会見で酩酊していた責任をとって辞任し、8月末の総選挙で落選した。思い出せば、2月にはすでにG7は米英主導で危険な量的緩和策を拡大するばかりで、すでに機能不全に陥っていた。対米従属党だった自民党の中川氏はあの時、米国と協調して金融危機対策をやろうとしたが、隠れ多極主義の米当局に邪険にされ、自暴自棄の深酒をするしかなかったのかもしれない。


 その後、自民党は惨敗し、日本は対米従属からの離脱を掲げる民主党政権となり、G7はG20に力を奪われて衰退し、中川氏は亡くなってしまった。死者を批判したくないが、中川氏は世界の多極化傾向や米国の隠れ多極主義に気づいていたのかどうか。せめて今後の自民党は、中川氏の無念の死を無駄にせず、多極化に対応して日本を再生できる党としてよみがえってほしいと思う。


記事の最後の部分を中心に引用したのは、最近急逝された政治家中川昭一さんのことが念頭にあったからです。私は自民党員でもなければそのシンパでもなく中川さんの政治的信条に賛同するものでもありませんが、お父様にあたる中川一郎さんともども私と同じ北海道の出身であることで親近感があることと、また中川さん親子の関わった 青嵐会 (ウィキペディア) に興味があったため。青嵐会に関しては、現都知事かつ作家でいらっしゃる石原慎太郎さん著の 【国家なる幻影: わが政治への反回想】 (私の手許にあるのは、1999年3月25日発行 第5刷、株式会社 文藝春秋。収録文章の初出は、 「諸君!」 平成8年1月号〜平成10年8月号とのこと) を読んだ際に感銘を受けたもの。この会の発足についてはウィキペディアによると 『−−−渾沌停滞した政界に爽やかな風を送り込もうという意味を込めて石原慎太郎命名したと言われる。設立趣意書には「いたずらに議論に堕することなく、一命を賭して、右、実践する」とあり、結成時に血判状を捺した事で知られる。』 と芝居がかったものでしたが、確か周恩来首相が会の名前を誉めたこと、会の信条は別として政治家としての姿勢を評価したことが特に印象に残っています。(本の中に書いてある筈ですが、見つけられなかった。) なお蛇足ながら、この本は私が政治の世界に関心を持つ様になったきっかけですね。


最後に中川昭一さんに関する記事を紹介して、故人のご冥福を祈ります;

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091008-00000645-san-pol
中川昭一氏追悼 見果てぬ「青嵐会」の夢 
10月8日21時54分配信 産経新聞


−−− 中川氏は「うわばみ」と思われてきたが、私が知る素顔はまったく違う。恐ろしいほど真面目で礼儀正しく、冷たいお茶を傍らにチビリチビリと酒を飲みながら、政治、外交、環境、文学、そして人生について大いに語らう。興味のある話にはメモを取りながら熱心に聞き入り、つまらないジョークを言ってはバツが悪そうに照れ笑いする。少年がそのまま大きくなったような人だった。


 ただ、腰に椎間板ヘルニアという“爆弾”を抱えていた。痛みに耐えきれず、強い鎮痛剤、精神安定剤、そして睡眠薬を飲む。そんな状態で酒をわずかに飲むと意識がぶっ飛ぶ。この悪循環を繰り返していた。例の酩酊会見も「ワインを口に含んだだけ」と言うのは決して偽りではなかっただろう。 (中略)


 政治家としては、あまりに純真で、あまりに繊細で、そして不器用な人だった。10月17日からは妻、郁子さんとエジプト旅行を予定し、心待ちにしていた。今ごろ中川氏の魂はピラミッドの上空に広がる蒼穹を飛び回っているのではないか。(石橋文登

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*1:同サイトによるとその明細は; (1)財政赤字の是正、(2)補助金カットなど財政支出の変更、(3)税制改革、(4)金利の自由化、(5)競争力ある為替レート、(6)貿易の自由化、(7)直接投資の受け入れ促進、(8)国営企業の民営化、(9)規制緩和、(10)所有権法の確立。要は、アメリカに最も都合の良い制度の押し付け。
このワシントン・コンセンサスの実現によって 「格差社会」 が世界中に広がっているという批判が経済学者ジョセフ・E・スティグリッツ(Joseph E. Stiglitz)などから寄せられているとのこと。参考となりそうな書籍は;
世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す (単行本)
ジョセフ・E. スティグリッツ (著), Joseph E. Stiglitz (原著), 楡井 浩一 (翻訳)
単行本: 414ページ / 出版社: 徳間書店 (2006/11)
ISBN-10: 419862254X / ISBN-13: 978-4198622541 / 発売日: 2006/11