遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

翻訳家 山岡朋子さん その47:  詩人 谷川俊太郎さん、ロルカ、ユパンキのことなど

数編だけであれば学生時代までに読んだ詩人は何人もおりますが、ある程度親しんだと言えるスペイン語圏の詩人といえば、Federico Garci'a Lorca のみ。何しろ理系であった期間が長かったので、詩だの和歌だの俳句だの漢文などにはあまり親しみがなかった。


しかし私でもお名前くらいは存じ上げている、日本を代表する詩人でいらっしゃる谷川俊太郎さん *1 の詩集 「世間知ラズ」 の西語訳出版を記念し、去る6月25日、日墨交流400周年記念行事の一環としてメキシコ大使館主催による 【谷川俊太郎とクリスティーナ・ラスコン】 が開催されました。翻訳がメキシコ人の女性作家クリスティーナ・ラスコンさん *2 によるもののため。


田舎者丸出しで、30年近く前の記憶に頼って歩き回ったためよりによって赤坂見附周辺で迷子になってしまい、30分程遅刻してしまいましたが、何とか出席。ただし私には詩に関して云々するだけの経験も知識もありませんから、以下順不同に勝手なコメントを;

  • 非常に感激したこと; まさか谷川さんご本人による数編の詩の朗読が聴けるとはおもってもいませんでした!!またその各々の翻訳の朗読も、翻訳者ご本人によるものを聞けたのは大変貴重な体験。これだけで、大汗かいて時間の都合つけて出席した苦労など吹っ飛んでしまいました。ケータイのカメラで写真を撮りまくっている方もいらっしゃいましたが、もったいないハナシです。
  • 詩の翻訳に関して谷川さんより 「今回のスペイン語訳については、言語を解しないためその出来についてはわからない。詩の翻訳については基本的に不可能と考えるが、翻訳されたものを自由に読んで頂ければよいのではないか」 と云った趣旨のコメントがありました。


    幾つかの翻訳も手がけておられる谷川さんご自身のお言葉ですから非常に重みがありますね。 『詩の翻訳については基本的に不可能』 については全く同感です。昔ロルカの詩を西語・日本語で読んだ際、確か翻訳者 (会田さんだったか荒井さんだったか長南さんだったか忘れてしまいましたが) も書かれていた通り、草花ひとつとっても、それに親しんでいなければ情景は浮かばない。特に詩の場合小説などと違って言葉の数が絶対的に少ないし、韻を踏む場合更に複雑となるし。


    詩ではありませんがその意味で (昔) 非常に感銘を受けたのは、フランス文学者でいらっしゃった渡辺一夫さんによる名訳中の名訳 『ガルガンチュワとパンタグリュエル物語』 ですね。(宮下志朗さんによる新訳がちくま文庫から刊行されている様ですが、読んでいません。)
  • 日本語の朗読に続いてスペイン語訳も朗読されましたから、元の詩の一字一句をほぼ忠実に訳されていたことがわかりました。翻訳として間違いでは無いと思いますが、日本語を母国語としない人が読んでどの様な心象が描かれるか?詩を構成する、数多くはない言葉ひとつひとつの表すものが、原語と翻訳先言語で全く違うこともあり得ますよね? (これは言葉の違いのみならず、同じ日本人であっても育ってきた環境やら年代の違いで同じことは云えますが。) 正直なところ、よりによって一番翻訳しにくいものを選ばれたな、と云う気がします。でも一方では、日本の文化が西語圏に紹介されることは大変嬉しいことでもあります。


−−−谷川さんの熱烈なファンの方々も出席されていた様ですし、文字情報としての 「詩」 に親しみのあまり無い私はその場にいることに非常な違和感をおぼえたため、講演本体が終了後早々に退散。


ただし 「詩に親しみが無い」 とは言ってもそれは詩の本に興味が無いだけであって、「音声となった詩」 は別。フラメンコの唄だって立派な詩ですからね。ロルカ *3 の詩についても、実は朗読されたものが大好き。極端なハナシ、意味はわからなくとも原語で朗読されたものの響きや抑揚や音楽性を楽しむのも詩の楽しみのひとつとおもいます。


ロルカの詩の朗読については数多くあります。以下相当旧い歌ですが、ロルカ本人によるピアノ伴奏のものをふたつ紹介しますね;


Federico Garcia Lorca - 1 - "Sevillanas del Siglo XVIII"



Lorca y La Argentinita - Nana de Sevilla (original) 1931


またロルカはフラメンコとも縁が深く(後日紹介予定)、たとえば6月1日付け 『メキシコ、フラメンコ、女性の唄い手 −−− Cielito Lindo !!』 中で紹介したパストラ (ラ・ニーニャ・デ・ロス・ペイネス) もロルカのものを唄っています;


La niña de los Peines y Federico García Lorca


少し長くなりますが、山岡朋子さん (横山朋子さん名) 翻訳の 『ルス、闇を照らす者』 の舞台であるアルゼンチンの Payador --- 吟遊詩人 (と呼んで差し支え無いとおもいます) でいらっしゃった、アタウアルパ・ユパンキさん *4 も紹介しておきます。1976年に来日されたユパンキさんのコンサートに行きましたし、レコードも集めましたっけ;



Atahualpa Yupanqui - Duerme negrito
※ ユパンキさんは左利きです。
この動画中の説明によるとユパンキオリジナルではなく、ベネズエラ・コロンビア国境のカリブ海沿岸 (多分、La Guajira 半島に住む Los Guajiros のこと) に伝わる音楽にインスピレーションを得て編曲したもの。私の大好きな曲のひとつです。子守唄ですから子どもに唄いかけるのですが、唄い手に子どもを託した母親の気持ちが痛いほど伝わってくる−−と私は感じますが、どうでしょう。


もうひとつは、恐らくユパンキオリジナルの中で最も有名な 「牛車に揺られて」 を、あの藤沢嵐子さん *5 が歌ったもの;


Ranko Fujisawa - Los ejes de mi carreta
西語の歌詞が画面に表示されています。
藤沢嵐子 「牛車にゆられて」
曲:アタウァルパ・ユパンキ
詞:ロミリ・リソ
ギター:菅原洋一鶴岡雅義アントニオ古賀


著作権の問題によってアカウントが削除された様子。代わりに別の曲を紹介しておきましょうか *6


CAMINITO (tango) por Ranko Fujisawa - Mosaicos porteños de Luis Alposta
動画ではなくスライドショー、藤沢嵐子さんの写真多数



「書かれた詩」 から 「朗読された・歌われた詩」 へと展開して行くと、自分の体験に基づくだけでもキリが無さそうですね。谷川さんにしても、ロルカにしても、ユパンキにしても、書籍のみならずネットなどでも様々な形態の情報にアクセス出来る時代です。著作権の問題はあるのでしょうが、入口が増えることは単純にいいことと思います。ほんのひと昔前は本当に大変でしたからネ。

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