遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

翻訳家 山岡朋子さん その31  『フリア・アルバレスと闇の時代』 その2: Mirabal 姉妹のこと

山岡朋子さんのエッセイ 『フリア・アルバレスと闇の時代』

http://shuppan.sunflare.com/essays/yamaoka_01.htm


で紹介されているフリア・アルバレスの小説は以下2作品;

・"In the Time of the Butterflies"(1994)
・"Before we were Free” (2002)


私自身書籍を読んでいないため内容やそれが書かれた背景については山岡朋子さんのエッセイに譲るとして、1番目の作品のモデルとなったミラバル4姉妹について簡単に紹介することに。


フリア・アルバレスさん達が合衆国へ逃れて間もない1960年11月25日に姉妹のうち3人が虐殺されます;


長女 パトリアメルセデスミラバル   ( 27Feb24 − 25Nov60
次女 ベルヒカ・アデラ・「デデ」・ミラバル ( 29Feb25 −
三女 ミネルバ・アルヘンティナ・ミラバル ( 12Mar26 − 25Nov60
四女 アントニア・マリア・テレサミラバル( 15Oct36 − 25Nov60

※ 生年月日については、サイトによって結構ばらばら。年まで違うのが−−−


トルヒージョ政権は、地下活動時の暗号名 『マリポサ(蝶)』 で知られ親しまれた3姉妹を抹殺することで闇に葬ろうとしたものの、結果として反政府活動の象徴であり殉教者となった3姉妹の遺志を強化することとなり、翌1961年のトルヒージョ暗殺へ繋がったことは山岡朋子さんのエッセイに記された通り。


フリア・アルバレスさんは虐殺された3姉妹だけではなく、生き残られた次女についても調査(および多分取材)のうえ1994年に ”In the Time of the Butterflies”と云う小説の形で発表されました。アルゼンチンの歴史を扱った 『ルス、闇を照らす者』 と共通点がありますね。先日村上春樹さんのイスラエルでの発言中にもありましたが、小説家が史実から事実と考えるところを把握し、再構築した小説とおもいます。文学作品であり、同時に歴史の俯瞰でもある。


トルヒージョの行動は間違いなく逐一把握しており、恐らく反共と云う 「大義」 の名の下での軍事援助・資金提供と云う積極的な形や黙認と云う消極的な形でそれに加担していた 「帝国」 に実質牛耳られているとは云え、国連は1999年12月17日に、ミラバル姉妹の暗殺された11月25日女性に対する暴力廃絶のための国際デー、この日より16日間性差別による暴力廃絶活動の16日 *1 、その終了日12月10日世界人権デーと定めています。


なおミラバル姉妹のドキュメンタリー映画(チリ)も存在します;


題名 = Code Name: Butterflies. Trailer. English

このドキュメンタリー映画のサイトよりDVDも購入可;

http://www.codenamebutterflies.org/        (英語)
http://www.codenamebutterflies.org/index_es.html  (西語)


以上、主に http://en.wikipedia.org/wiki/Mirabal_sisters 参照しました。


なお生き残った次女デデさんは、犠牲となった3人の肉親の記憶を風化させぬ様、精力的にミラバル姉妹博物館を運営していらっしゃる様です;


題名: hermanas mirabal 1 (4まであるシリーズ)
話していらっしゃるのが、次女のデデさんご本人。スペイン語ですが、英語の字幕が出ます。


紹介しました山岡朋子さんのエッセイ中、

−−−ひとり生き残った三女は、他の三人が神格化されていく中、どのような心境で過ごしてきたのか。四人の心の軌跡を辿るべく、フリアは敢えて小説という形を選び、姉妹を一人ずつ描いていく。−−−

とあります。私はデデさんの生き方も、「殺されて神になった」 他3姉妹の生き方同様に価値のあるものだとおもっています。経緯は不勉強で存じ上げないが、生き残って事実を後世に伝えることは、日本人の感覚からすると亡くなられた方に申し訳ないと思われるのかも知れないが、ある意味それ以上に勇気の要る、難しいことです。いのちを粗末にしない、事実を語り続ける語り部となることで人間の愚かさ加減を認識させることができる、と云う観点からもね。


−−−私は戦後世代の人間ですが、大戦時日本軍が実際に何を行ったのか、あるいは行わなかったのか?これは私の認識・調査不足かも知れませんが、参加したひとたちがどんどん消えていくのにそれを語ってくれる方がいないのが残念。広島・長崎に関しては、間違いなく 『人類に対する犯罪行為』 の被害者とおもいます。でも加害者としてどんなことをやったのかがわからない限り、戦後は終わりませんね。平和を祈念する展示資料館などもありますし、否応なく人殺しに駆り出されたり抑留された兵隊さんやそのご家族は確かに被害者でしょうが、でもそれは戦争のある一面だけを表しているに過ぎません。ミラバル姉妹を殴打し扼殺した人間は、「上からの」 命令を実行しただけですよね?いやいやながらやったにしろ、(考えたくはないが)楽しんでやったにしろ大して変わりはない。関わった全員を罰したり賠償金を支払わせることは出来るかも知れないが、憎しみは消える訳がありませんから−−−


どんな「大義」に基づくにしろ、人を傷つけたり殺したりする戦争は正当化されないし憎しみの悪循環をあおるだけ、と云うのが歴史の教訓とおもいます。自分にとってかけがえのないひとを失うことを考えたら、誰でもわかることですね。イラクアフガニスタン、これだって尾を引きますよ。


フリアさんについては、引き続き紹介予定。


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*1:詳細は url http://www.unfpa.org/16days/ 参照;16と云うのは活動期間でもあり、かつ暴力の16形態も表わしているのですね。私と縁のあるコロンビアのケースをひとつ紹介しておきます; http://video.unfpa.org/?v=2361297982205606632007 題名=Ending Violence Against Women in Colombia