遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

翻訳家 山岡朋子さん その21 『ルス、闇を照らす者』

本日日本語訳も読了。

原著は横書きvs翻訳は縦書き、また原著の西語での語感vs日本語での語感、私が男性vs翻訳者は女性、という違いはあるものの、原著とほぼ同じ感動とリズム・イメージが得られました。

以前にも触れましたが、この翻訳が「名訳」と評価される理由は、扱われている話題の重さは別として、原作の素晴らしさ・強烈な個性に、山岡朋子さんの素直かつ忠実な翻訳が加えられたことによる相乗効果だな、と感じた次第。これが初めてのスペイン語翻訳とは到底思えないレベルです。

訳者あとがきで山岡朋子さんは;

−−− 原文は会話も独白も地の文も混然とした独特のスタイルで、流れるような雰囲気をかもし出している。そんな雰囲気を少しでも感じ取っていただけたら、訳者として望外の喜びである。−−−

うん、その点は間違いなく実現してますね。そう、原著を読み始めた時、あれ、ここは誰の独白だっけ?と、行ったり来たりしましたっけ。第1部・2部・3部と時系列に進みますが、各部の中では幾つものストーリーが平行して進み、全体としての流れが浮き出るスタイルは独特。色々な社会階層、加害者・被害者と必ずしも明確には区別できない関係者、特に女性たちのことが一切の批判なしで語られるこのフィクションには説得力があります。

翻訳に関しては、注釈が最低限に抑えられているってのも好感を持てました。(アルゼンチンあるいは西語圏の人達にとってはあまりに当たり前でも、それ以外の読者には「何のこと??」ってことがありますからね)

原著に関して私が個人的に惚れたのは、全体のストーリーの要となるミリアムと云う女性の語りですね。主人公を圧倒する迫力があるとおもう。

で、翻訳にハナシを戻すと;大勢に影響は無いものの、幾つか??があったので良く調べずに自分の感性と経験だけに頼って付箋を貼っていきましたら、計15枚ありました。明らかな誤訳、誤植と思われる箇所、人名表記のはてな、この訳語はどんなものかなぁ?、など。

次回増刷時(復刊されるかな?)反映できればなぁ、あるいは次回の翻訳で活かしてほしいなぁ、と云うことで、少し詳細に検証してみるつもり。決してあら探しをするつもりではないので、翻訳者以外には公開しませんが。「名訳」の看板に傷が付くレベルのものではないし。原著とミリアムに対する私の思い入れってことも、私の南米での経験やら現在の生活に基づく勝手な誤解もあるかも知れないしね。

以上が原著・翻訳両方を読了直後の感想。次回は上述の『素直かつ忠実な翻訳』について考察できれば。