遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

NZ 炭鉱爆発事故: 続報 5 石炭産業のこと その1

事故調査・レスキュー (実際にはご遺体の収容モード)・ご家族のサポートなど、あまりに悲しい記事ばかりとなりました。ご家族と同じ痛みを感じることは難しくても、悲しみは共有出来ます。閉じ込められた29名には皆それぞれに肉親やら大事な人がいて、かつ帰属するコミュニティーがある。当たり前ですね。でも同じことは、自分の子どもや肉親、仲間を飢えや病気で、あるいコレラで、自然災害で、爆撃で、事故で−−−失った場合にだって言える筈。今回の炭鉱事故の様にニュースバリューが無いから報道されないだけで、犠牲を悼む・痛む人が犠牲者の何倍もいる−−− と云うことを改めて思い知らされますね。


今回の事故に関しては大きな動きがあるまで少し離れて、今回の事故から地元の石炭産業のことを眺めてみることに;




【国レベル】


ニュージーランドの経済・貿易・直接投資動向 (ジェトロ世界貿易投資報告)

   勤め人時代に随分お世話になったレポート。この中に 「石炭」 と云う言葉は出現無し、 「鉱業」 が下掲1箇所のみ;

  


ニュージーランド - Wikipedia

  鉱業

  −−−ニュージーランドの鉱業は小規模である。有機鉱物資源では、亜炭(20万トン、2002年)、石炭(371万トン)原油(150万トン)、天然ガス(244千兆ジュール)が採掘されているが、 (以下略)




【国−炭鉱レベル】


海外炭の安定供給確保と地球環境負荷の低減に向けて (pdf)
   2010年11月19日紹介のもの

  ニュージーランドの石炭生産量は少ないですが、低品位の亜瀝青炭は国内発電向け、高品質瀝青炭は輸出向けに生産しています。原料炭は全量輸出され貴重な調達先となっています。炭質は灰分、硫黄成分が低いことが特徴で、2008 年の生産量470 万トンのおよそ半分の260 万トンが日本、ブラジルなどへ輸出されています。


Mining in New Zealand - Wikipedia

  −−−Coal mining produced 4.6 millions tonnes of coal in 2009, of which over 2 million tonnes were exported. New Zealand coal reserves are in excess of 15 billion tonnes, mainly in Waikato, Taranaki, West Coast, Otago and Southland. Over 80% of the reserves are in Southland lignite deposits worth $100 billion. Coal is produced from four underground and 21 opencast mines. The largest coal mining company is Solid Energy, a state-owned enterprise.




【国 − 地方 − 炭鉱レベル】


Crown Minerals — Facts and Figures

  

  

   これでウェストコースト地方の炭鉱の特徴がわかりますね。NZで 歴青炭 を産出するのは南島のウェストコースト地方のみ、2009年産出は約209万トン。 "Sub-Bituminous" (低度歴青炭ですかね?) も含めた同地方総産出量約224万トンのうち約8割が露天掘り、残り2割が坑内掘り


Crown Minerals — Operating coal mines

  

   坑内掘りは3炭田−4社。NZ最大の鉱山会社 "Solid Energy" 社はこの地方でも露天掘り・坑内掘り両方を行っていますね。




【PIKE RIVER COAL LIMITED 社 炭鉱】


   同社は上掲の如く、『瀝青炭を産出するウェストコースト地方パイク・リバー炭田で坑内掘りを行う会社』 と云うことになります。なお上掲資料の坑内掘り産出量47万トンは2009年実績ですから、同社の供給はそれにプラスされるものでしょう、きっと。


The Mine

   −−−The seam holds the largest-known deposit of hard coking coal in New Zealand, with 58.5 million tonnes of coal in-ground. (中略) The mine is forecast to hit its 'steady state' rate of approximately one million tonnes a year in the first half of 2011, and maintain that production
rate during its 18+ year mine life. There is potential to recover several million tonnes more coal from the Brunner seam and upside potential in the deeper Paparoa seams.  (以下略)




【PIKE RIVER COAL LIMITED 社と輸出】


Annual Review 2009 (pdf)
  
   2010年11月20日紹介のもの。ちなみに "Japan" が出現する箇所は;


  "Positive achievements include completion of all surface infrastructure, contracting sales of our coal to Japan and India at US$128 tonne through to March 2010, and starting to stockpile our first export shipment."

  "Pike River has firm orders from Japan and India for three-quarters of output over the next three years and our two Indian cornerstone shareholders have committed to buy 55 percent of production for the 18-year+ life of the mine. We have strong interest from other countries, particularly China and Korea."

  
   蛇足ですが、このレポート12ページ(PDFでは14/16)に、地元イベントに参加の Peter Whittall さんが笑顔で映っています。この方が今回の事故で会社を代表して記者会見など行っています。その他、他レポートにも、よく見ると今回閉じ込められた方の写真がありますね。


Capital Raising & Operational Update 5 May 2010

  Long Term Sales Contracts

    77%-100% for 3 years & 55-90% for life of mine
    • Gujarat NRE - 40% life of mine
    • Saurashtra - 15% life of mine + option 5%
    • Japanese Steel Mills - 22% for 3 yrs
    • NZOG option – uncontracted for 3 years then 30% life of mine




【PIKE RIVER COAL LIMITED 社 炭鉱の将来】


   今回の事故を受けて経営者に対し、この先炭鉱はどうなるのか? との質問が投げかけられています。このタイミングですからまずご家族のケアおよびレスキューに専念する、との当然の回答。その後のハナシとして、未来はあると思うがイメージが描けない、とのことらしい;


The future of mining



NZの坑内掘り炭鉱の安全神話? が揺らいでいます。厄介なメタンガスは、露天掘りの場合は大気中に発散してしまい問題無いのでしょうが、坑内掘りには常につきまといます。最新の設備を誇る筈の炭鉱での今回の事故でもガス突出の原因・発火の原因解明はこれからの調査を待たなければならないし、坑内火災が発生しているのであれば消さなければなりません。暫くの間は間違いなく操業不可能だし、他坑内掘り炭鉱の操業にも多かれ少なかれ影響が出る筈。同社にとって最悪のケースは閉山ですが、非常に冷徹な観方をすれば、坑内掘りは上掲資料によりNZ全体では産出量ベースで18%、ウェストコースト地方でも21%ですから、ガス爆発の避けられない坑内掘りから全面的に撤退したとしても全体として大きな影響は出ない、と考えられます。


(この記事続く)